彼女とアニメ映画を観に行く

 今日は、千夏ちなつさんとアニメ映画を観に行く約束をした日だ。


千夏さんのマンション前に集合してから映画館に向かい、朝最初の上映を観た後

早めのランチを取る予定だ。


その後は決まっていない。僕と千夏さんの気分次第かな。


初めて女子と休日に出かけることになる。これってデートなのかな?

誘われた時はデートだと思い込んだけど、今はよくわからない…。


服装はどうしよう?

オシャレな服は持ってないし、いつも通りのラフな服装で良いや。


僕は準備を終え、千夏さんのマンションに向かった。



 千夏さんのマンション前に着いたところ、彼女は既に待っていた。


「おはよう、れい。じゃあ、行きましょうか」


「うん」


マンション前に集合した理由は、千夏さんのお父さんを避けるためだ。

やましいことはしてないけど、好き好んで会いたい人ではないからね。


自分の父親すら微妙な距離感なのに、他人の父親はハードル高いよ…。



 電車を乗り継いで、映画館に着いた。


「千夏さん、座席ってどこになるの?」


今日の件は、なにからなにまで千夏さんに任せているので、僕はサッパリだ。


「一番後ろの真ん中あたりよ。良い席でしょ?」


本当に良い席だ。何でそんな良い席を取れたんだろう? 後で訊こう。


彼女の動きを観察したところ、ネットで座席を予約済みのようで

券売機に何か番号を打ち込んだら、発券された。


僕達は発券されたチケットを、スタッフに見せて入場した。



 指定された席に座る僕達。もちろん、隣同士になる。

さて、さっきの疑問を訊こうかな。


「千夏さん、何でこんな良い席を取れたの?」


「それはね、父さんがここのヘビーユーザーで、会員ランクが高いらしいのよ。

んで、その会員特典がってことらしいわ」


なるほど。そういう理由なら納得だ。


「そういえば千夏さん、チケット代っていくらだった? 僕払うよ」


「気にしないで良いわよ。っていうか、母さんが出してくれたから」


「そうなの?」


「父さんがよくここを利用してることは知ってたから、会員特典を使わせてもらいたくてね。予約をお願いしたのよ。もちろん、お金はアタシが出すつもりだったわ。だけど、そのやり取りを聞いた母さんが『代わりに出してあげる』って言ってくれたから、甘えちゃったわ」


「そうなんだ。ちなみに、お父さんにはなんて言って予約してもらったの?」


「え? 『友達と2人で映画見たいから、予約してほしい』だけど?」


それ、友達と言ってたら、お父さんは予約してくれたのかな?



席が徐々に埋まり始める。そんな様子を観た千夏さんが一言。


「意外と女の人が多いわね…」


今回見る映画は、少年漫画の映画化になる。

男性客が圧倒的かと思ったけど、そうでもなさそうだ。


3割ぐらいは、女性客のような気がする。これは僕も予想外だ。


「なんか、少年漫画好きを隠してたアタシが馬鹿みたいだわ…」


「あはは…」

他にかける言葉があると思うけど、思い付かなかったよ…。



 上映前のCMを観て、いよいよ上映開始だ。


……スクリーンだからこその迫力・大音量。これは凄い。

映画館に来るのは面倒だけど、苦労が報われた感じだよ。


椅子の腕置きを使っている時、千夏さんの手が僕の手に触れる。

普通に置いてたら、手が触れることなんてないよな? どういうつもりなんだろう?


しかも、1回だけでなく何度もある。これって、もしかして…

僕は千夏さんの手を握ってみた。離したがらないので、その状態で鑑賞を続ける。



 早いもので、もう終わってしまった。バトル描写が良かったなぁ。

あのキャラの蹴り技の衝撃が忘れられない。


2回目を観るのも良いかも、と考えている時、千夏さんから小声で話しかけられた。


「玲って意外に大胆だよね♪」


未だに千夏さんの手を握っていることに気付く。

どれだけ握ってたんだろう?


「ご…ごめん」

慌てて手を放す。


「良いの。気付いてくれて嬉しかった♡」

千夏さんは笑顔で答える。


…なんか照れるな。



 映画館を出た後、近場のファーストフード店に向かう僕達。

千夏さんが期間限定バーガーを食べたいと言ったので、そうなった。


僕としてはありがたいけどね。オシャレな店なんて、行った事ないし…。


僕も千夏さんと同じ、期間限定バーガーを含むセットメニューを注文した。

辛さがウリのバーガーのようだ。興味がわいてきたな。


お昼には早い時間だから、ほとんどの席が空いている。

僕達はテーブル席に、向かい合って座る。


早速、期間限定バーガーを食べよう。


「……、これ結構辛いね」

僕はすぐ、セットで付いてきたオレンジジュースを飲む。


「そう? 辛いけど、すぐ飲み物を飲みたくなるほどかな?」

千夏さんは気にせず食べている。


辛さ耐性は、僕の方が下のようだ…。ちょっと情けないかも。



 「アニメを映画館で観るのも悪くないわね。臨場感が全然違うもの」


「そうだね。僕も驚いたよ」


「アタシにとってアニメは『毎週の楽しみ』なのよ。映画化する必要あるかな? と思ってたけど、考えが変わったわ。あの作画・演出は、映画じゃないとできないよ」


詳しいことはわからないけど、毎週放送するのと映画化では、予算とかその辺の事情が違うんだろう。そうじゃなきゃ、映画化するメリットがない。



食事に集中してお互い黙っている中、千夏さんがとんでもないことを言い出した。


「ねぇ、玲。アタシ達、付き合わない?」


「え?」


千夏さん、急にどうしたんだ? 理由を訊いてみよう。

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