彼女の部屋で流れる気まずい時間

 今週の土曜か日曜に、僕と千夏ちなつさんが好きな漫画のアニメ映画を観に行くことにした。しかし、僕がその漫画の内容や設定をうろ覚えなので、千夏さんの部屋で復習することになる…。



 「なるほど。あのセリフ・シーンにも意味があるのか…」


僕はうろ覚えの部分を千夏さんに伝えてから、それが書かれているらしいコミックを読む。…本当に書いてあったよ。千夏さんの知識量、凄すぎるな。


今度観に行くアニメ映画は、海賊を題材にした長編漫画を元にしている。

面白い漫画だけど、全容を把握するのが大変だ。物覚えが悪い僕にはキツイ…。


「そういう事ね。何気ないシーンがだと知った時は、本当に感動したわよ」

千夏さんは興奮した様子で言う。


れい。できれば、アタシと語れるぐらい漫画の知識を深めてもらえると助かるわね。あんたは貴重な漫画仲間ですもの」


「そうだね…。できるだけ頑張るよ」


ぶっちゃけ無理だと思うけど、一応話を合わせる。



 僕は千夏さんの部屋にある、別の少年漫画を手に取る。別の漫画で箸休めだ。

今度はラブコメにしよう。千夏さん、少年向けのラブコメを読んで楽しいのかな?


適当に読み進めた時、サービスシーンが書かれているシーンになった。


主人公が持っている飲み物をヒロインにこぼし、ヒロインの透けブラを目撃するのだ。ヒロインが恥ずかしがっている顔が萌えるな。



そのシーンを読んでいる時、千夏さんが覗き込んできた。


「玲。ニヤニヤしてるけど、そのシーン気に入ったの?」

千夏さんが訊いてくる。


「千夏さん見てたの?」

ニヤニヤしてたかな? どちらにしても、見られているとは思わなかった。


「まぁね。そのヒロイン、可愛いよね。その漫画の中で、一番好きだわ」


「え?」


少年向けのラブコメって、男の妄想を形にしたものだろ? 女子の千夏さんが共感できる要素あるかな?


「アタシ、漫画の可愛い女の子は好きなのよ。現実の女子は、イラっとするけど…」


「そ…そうなんだ」

ってことは、千夏さんに女性関連の話は振らないほうがいいな。意識しておこう。



 さっきのヒロインの透けブラを観て、今まで疑問に思っていたことがある。


千夏さんのお母さんは、巨乳を通り越して爆乳レベルなのに、千夏さんはそうではないのだ。本人にどうこうできる問題ではないが、気になる…。


これから急成長するのだろうか?


僕はつい、千夏さんの胸を観てしまった。

チラ見に留めたつもりだけど、千夏さんは僕の目を直視して言った。


「どうせアタシの胸は、あのヒロインみたいに大きくないわよ…」


声のトーンからして、キレている訳ではない。いじけているんだ。

それはわかる。けど、ちょっと気まずいな…。



僕が悪いのは間違いないけど、この空気。どうしようか?

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