彼女との距離が縮まった

 ゲリラ豪雨でびしょ濡れになったところ、運よく古賀さんのお母さんに会い、シャワーを借りることに。パンツ含む全ての服を乾かしているので、ノーパンで借りたTシャツとハーフパンツを着た僕。


そんな時、ハーフパンツがずり落ち、古賀さんの前で露出してしまった。

どうなっちゃうの? 僕?



 「さっさとウチから出ていけ!! 変態!!!」

古賀さんは大声で叫んだ後、リビングから出ていく。


「ちょっと待ちなさい! 千夏ちゃん」

古賀さんのお母さんが後を追う。誤解を解くのは任せます。


僕はリビングの除湿器近くに干してある自分のパンツに触れてみた。

半乾きだけど、またずり落ちるかもしれない。念のため、履いておくか?


数秒考えた結果、履くことにした。半乾きとはいえ、パンツの存在は心強い。

後は、ここリビングで古賀さんのお母さんを待とう。



 古賀さんのお母さんが、リビングに戻ってきた。


「今村君。さっきはゴメンね。千夏ちゃんにはしっかり説明したから」


それを古賀さんが受け入れるかどうかだけど…。何とも言えない。


「やっぱり、服のサイズが合ってなかったのね。見込みが甘くてごめんなさい」


「いえ、はっきり言わなかった僕が悪いんです」



 …このまま古賀家に居続けるのは、居心地が悪い。

服を回収して帰ろうと思った時、リビングの外から足音が聞こえた。


「今村、さっきは言い過ぎた。ゴメン」

古賀さんがリビングに戻ってきて謝った。


「良いんだよ。僕も悪いしね」


「あのさ…」


古賀さん、妙にモジモジしてるな。何だろう?


「これからアタシの部屋で話さない? 嫌ならそれでも良いけど…」


古賀さんの部屋に誘われた? どういう事なんだろう?


以前、古賀さんのお母さんに『女の子には難しい時期がある』と聴いたけど

これもそうだよな。理由がわからないし。


僕は古賀さんのお母さんを観たところ、ニヤニヤして僕を見つめている。

自分で決めろって事か?


断る理由はないし受けよう。


「良いよ。今から行こうか」


「うん…」


古賀さんにしては弱々しい返事で、僕が戸惑う。早速向かう事にした。



 古賀さんの部屋に入った僕。あの時同様、普通の部屋だ。

変なものがある訳ではないし、オタクグッズで溢れてる訳でもない。


普通に見えるだけで何か秘密があるのか?

僕は古賀さんの部屋の大半を占める、本棚を観てみた。


並んでいる本を観て気付いた。ここにある漫画、全部少年漫画だ。

有名どころからマイナーまで、多岐にわたるな。


古賀さんが僕を部屋に入れたくなかったのは、これを知られたくなかったからか?



 「今村さ、女の子が少年漫画のファンってどう思う?」

古賀さんが僕に質問してくる。


「別に良いんじゃない? 好みは人それぞれでしょ?」


「以前、本屋で少年漫画を買うところを、ある男子に見られてね。そいつは『女子らしくない』ってはっきり言ってきたわよ。あんたにも言われると思って、部屋に入れたくなかったの」


その男子の発言で、古賀さんは傷付いたんだな。

だから『ぶっ殺す』という強い表現を使ってまで、僕を拒絶したんだ。


「でもあんたは違った。あんたの部屋で話したけど、女子とか関係なく1人のファンとして見てくれた。それがとても嬉しかったのよ」


漫画を語っただけなのに、こんなに喜ばれるなんて。予想外だ。


「漫画友達のあんたに嫌われたくない。だから、勇気を出して謝りに行ったの」


「そうだったんだ…。色々教えてくれてありがとう。古賀さん」


で良いわよ。秘密を知られて名字呼びは変じゃない?」


「確かにそうかも。わかったよ。千夏さん」


「アタシもって呼ぶから」



 千夏さんとの距離が縮まった後、2人で再びリビングに戻ってきた。

僕の服は乾いていたので、ささっと着替える。


「着てた服はそのままで良いわよ」

千夏さんのお母さんが僕に声をかける。


「え?」

洗濯して返すつもりだったんだけど…。


「気にしなくて良いから。ね?」


「わかりました」

そこまで言うなら、お言葉に甘えよう。



 …もうそろそろ帰ろう。外は明るいけど、長居してしまった。


「シャワーに加え、服も乾かしてもらって助かりました。今日は帰ります」


「わかったわ。気を付けて帰るのよ」


「玲。また来ても良いからね」


千夏さんの『玲』にお母さんは一瞬驚いた様子だったけど、すぐ元に戻った。



千夏さん母娘に見送られて、僕は古賀家を出た。

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