彼女に見られちゃった

 古賀さんに僕の部屋を見せて1か月ぐらい過ぎた。

6月上旬になり、初夏と呼ばれる時期だ。


僕と古賀さんは席が隣同士なので、挨拶とかで多少は話すけどその程度だ。

仲は進展していない…と思う。


元々、あのブラの件があるまで、僕達は話したことなかったんだ。

そんな簡単に進展しないよな。



 そんなある日の帰宅中、雨がポツポツ降ってきた。

傘はないけど、これぐらいなら急いで帰れば問題ないだろう。


と思っていたけど、あっという間に滝のような雨に変貌した。

びしょ濡れになる僕。ゲリラ豪雨、恐ろしいよ。


どこかで雨宿りしないとヤバい…。

ちょうどその時、古賀さんが住んでいるマンションが目に入った。


入口あたりで雨宿りしよう。まったく知らないところより安心できる。

僕は雨宿りしながら、カバンにあるタオルを取り出して体の水気をとった。


その最中、傘をさしている人が近付き、傘を閉じた。

傘の利用者の顔を確認したところ、古賀さんのお母さんだった。


買い物袋を持っている。買い物帰りのようだ。

向こうも僕に気付いたみたい。


「今村君。だいぶ濡れてるわね。大丈夫?」


「はい、大丈夫です。…ふぅ」

くしゃみが出る程じゃないけど、冷えてきたな。


「若いからって油断すると風邪ひくわよ。うちのシャワーを使いなさい」


「でも…」

そこまでしてもらうと、迷惑かけちゃうな…。


「遠慮しないで。久しぶりに今村君と会ったんだもの。お話ししたいわ」


そこまで言ってくれるなら…。


「じゃあ、お言葉に甘えます」


「急いでシャワー浴びないとね」

古賀さんのお母さんは、傘と買い物袋を持った状態で僕をマンション内に招いた。



 再び古賀家にお邪魔する僕。また来ることになるとは…。

僕は脱衣所に案内された。


「服は、あそこの脱衣かごに入れてね。除湿器でパッと乾かすから。

着替えとバスタオルは、すぐ持ってくるから」


「ありがとうございます」


僕は脱いだ服を脱衣かごに入れて、浴室に入った。

他人の家の浴室を使うって初めてだな…。緊張する。


当然、古賀さんもここを使ってる訳で…。いかんいかん、想像しちゃダメだ。


僕は、古賀さんのお母さんが着替えとタオルを持ってきてすぐ、浴室を出た。

余計なことを考えてしまうからだ。



バスタオルで体を拭き着替えようとした時、パンツがないことに気付く。

うっかり脱衣かごに入れたけど、スルーしてくれると思ったのに…。


パンツが乾くまで、僕はノーパンで過ごさないといけないの?

…贅沢は言えないか。


Tシャツとハーフパンツが置いてある。僕は着ることにした。

ノーパンの違和感が半端ないが、どうしようもない…。



 僕はリビングに向かう事にした。1回来たので、場所はわかる。


「シャワー、ありがとうございました」


古賀さんのお母さんはテレビを観ている。

その近くに僕の服が干してあり、除湿器も動いている。


「もう上がったの? ちゃんと温まった?」


子供みたいに心配される僕。


「大丈夫ですよ」


「なら良いけど…」


納得してない感じだ。子供が見栄張っているように見えるのかな?



「今村君の下着、かなり濡れてたから干しちゃった。ごめんね。

さすがに、主人の下着を渡すわけにはいかないし…。下着ならすぐ乾くわよ」


悪意がないから、責められないよな。

僕は古賀さんのお母さんと向かい合うように座った。


「そうですね。乾いたらすぐ穿きます」


ノーパンはきついから、早く乾いてくれ。パンツ。



「その服、サイズ大丈夫? ちょっと大きいかもしれないけど…」


「上はちょっと大きいですが、下は問題ありません」

嘘だ。上下共にブカブカだけど、上はごまかせないからそう言っただけ。


下は腰ひもを縛って何とかしている。小柄な僕には合わず、ずり落ちそうだ。



 「最近、千夏ちゃんとどう?」


「挨拶とか、ちょっと雑談するぐらいですね」

嘘をつく理由はないので、正直に答える。


「そう…。千夏ちゃん、今村君のことだけは全然話さないから気になってたの」


何でも話し合う親子だと思ってたけど、違うのかな?



その時、玄関の扉が開く音がした。古賀さんが帰ってきたか。

リビングに来た古賀さんは、僕の存在に驚いた。


「今村…。何でウチにいるのよ?」


「さっきのゲリラ豪雨でびしょ濡れになってたのよ。だからシャワーを貸したの」

古賀さんのお母さんが説明してくれた。


「ふ~ん。こんな時期ですもの。折りたたみ傘はいつも持ってないとダメでしょ」


古賀さんに怒られる僕。…その通りです。



 古賀さんが、干してある僕の服に視線を合わせた。

深い意味はないとはいえ、パンツも干してある。恥ずかしいから見られたくない。


「古賀さん。ちょっと…」


視線をずらさせるため、僕は椅子から立ち上がって、古賀さんに声をかける。

立つ必要はないが、椅子を動かす音も視線を動かすきっかけになるだろう。


「何よ?」

僕のほうを観る古賀さん。


その時、運悪く短パンのひもが緩み、ずり落ちてしまった。


沈黙が続くリビング。最初に声を発したのは…。

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