彼女を自宅に招待する

 僕が古賀さんの部屋を覗いた交換条件として、僕の部屋を見たいと言い出す。


古賀家を出た僕と古賀さんは、自宅に向かう事にした。



「さて、行きましょうか」

古賀さんは玄関を出てすぐ、ツバが長い帽子を被り、僕に言う。


「そうだね…」

自宅に帰るだけなのに、何でこんなに緊張するんだろう?



 「ここが僕の家だよ」

一般的な2階建ての一軒家だ。


「ふ~ん。ここがあんたの家ね…」

家とその周りを観察する古賀さん。別に変な物はないよな?


僕は玄関を開けようとした。…カギは開いているな。母さんはいるか。


僕は玄関を開け、靴を脱ぐ。リビングからテレビの音がするから、そこにいる。


古賀さんは僕の後に続き「お邪魔します」と言いながら靴を脱ぐ。


リビングにいた母さんが玄関に来た。

聞いたことがない声が聞こえたら、様子を見に来るよな。


れい、その子は?」

母さんに質問される僕。


クラスメートだけど、部屋に上げるのはになるか?

当然彼女ではないし…。なんて言えば良いかな?


古賀さんは帽子を脱いでから言った。


「おばさん、初めまして。古賀千夏こがちなつです。最近、玲君と付き合い始めました」


古賀さん。急に何を言い出すんだ。


「そうなの? 玲が女の子を連れてくるなんて、変だと思ったの。お付き合いしているなら納得だわ。玲のこと、よろしくね」


「…母さん、もう良いかな? 古賀…、じゃない千夏さんを部屋に上げたいから」

付き合ってる設定なら、名前で呼んだほうがいいよな?


「そうね。邪魔してごめんなさい。あとで飲み物を持っていくわね」


母さんがそこまでやってくれるとは。彼女(仮)が来て嬉しいのかな?


「うん。お願い」

僕は母さんに頼んだ後、古賀さんと共に自分の部屋に向かった。



 「古賀さん。彼女設定で良かったの?」


僕は部屋に入り、もらったお土産を置いてから古賀さんに尋ねた。


「そう言わないと不自然じゃない? あんた、女の子をよく部屋に入れる訳?」


「そんな訳ないでしょ。古賀さんが初めてだよ」


「でしょ? なら『彼女』って言うのが一番自然じゃない」


仮でも、僕の彼女で良いんだろうか?

訊こうと思ったけど、ノックで遮られてしまった。


「飲み物持ってきたわよ」

母さんは、市販のオレンジジュースと少しのお菓子を持ってきた。


「ありがとうございます。おばさん」


「ゆっくりしていってね」

母さんは扉を閉めて1階に下りて行った。



「それにしても、ここがあんたの部屋ね…」

古賀さんは僕の部屋を観察している。…恥ずかしいな。


「へぇ…、漫画が好きなんだ?」

古賀さんは本棚にある漫画に興味を示した。


「まぁね…」

女子の古賀さんが喜ぶ漫画はないはず…。退屈じゃないのかな?


「あ…、これ。エッチな漫画で有名な奴じゃん。あんた好きなんだ?」

古賀さんは本棚から取り出し、僕に見せてきた。


「うん…」


女子に部屋を見られることを想定しないからな。わかってたら隠したと思う。

そんな漫画を読んでると知って、古賀さんは幻滅したかな?


「男子なんだし、漫画とかなら気にしないわよ。手を出されたらキレるけど」

古賀さんは僕の心を読んだかのようなタイミングで言って、本を戻した。


その後、古賀さんは本棚にある少年向けの長編漫画を見つけ、ファンであることを明かした。ちょっと話したけど、ファンなのは本当だ。知識量が凄かったからね。



 「薄暗くなってきたわね。そろそろ帰るわ」


古賀さんは外の景色を見てから言った。


「玄関まで送るね」

彼女設定なんだ。送らないと不自然だろ。


「よろしく」

古賀さんは僕の見送りを承諾した。



僕達が玄関に着くと、母さんがリビングからやってきた。


「千夏ちゃん。また来てね」


母さん、もう古賀さんは来ないよ。今回来たのは、あくまで交換条件だし。


「はい。必ず」


これが社交辞令ってやつか? 古賀さん、笑顔で答えるよな~。


「バイバイ。玲君」

古賀さんは靴を履き終わった後、帽子を被って出て行った。


「玲。良い子を彼女にしたじゃない。大切にしなさい」


本当に彼女なら大切にするけどさ。あれは彼女設定なんだよ。

母さんにそう言う訳にはいかず「ああ」と答えておく。



古賀さんと漫画トークをしたから、またあの漫画を読みたくなったな。

夕飯ができるまで、一気読みしようかな。

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