半開きの彼女の部屋

 僕は古賀さんの案内で、古賀家の前に到着した。高層マンションの『503号室』だ。外観がかなりキレイなマンションで驚いたよ。


「ここがアタシの家よ」

そう言って、玄関の扉を開ける古賀さん。


僕は古賀さんの後に続き「お邪魔します」と言って入る。

玄関には、古賀さんのお母さんがいた。


「おかえり、千夏ちゃん。…また会ったわね。今村君」


「…どうも」


「それで母さん、お土産は?」

玄関周りに見当たらないので、古賀さんがお母さんに質問する。


「リビングよ。…せっかくですもの、お茶とかお菓子はどう? 今村君?」


別に用事はないから、いただいちゃおうかな?


「ありがとうございます。いただきますね」


「え…」


古賀さんが嫌そうに反応する。さっさと帰ってほしいようだ。


「ふふ。良かった。今村君ともっと話したかったの。…こっちよ」

古賀さんのお母さんは古賀さんの反応を無視して、先にリビングに向かった。


古賀さんが靴を脱いで上がってから、僕も続く。

リビングに向かう途中『千夏の部屋』というプレートが付いた部屋を見つけた。


古賀さんは自分の部屋の前で止まってから振り返り、僕を睨みつけて言った。

「勝手にアタシの部屋を見たら、マジでぶっ殺すから!」


物騒な言葉を投げかけた後、古賀さんは自分の部屋に入っていった。



 リビングに着いた僕。机の向かい合う位置に、マグカップが2つ置いてある。


「ごめんなさいね、今村君。女の子には難しい時期があるの。許してもらえるかしら?」


さっきの声、結構大きかったからな。リビングにいても聞こえるか。


古賀さんのお母さんは、キッチンからお菓子を持ってきて着席した。

僕もカバンを椅子の横に置いてから、続いて着席する。


「もちろんですよ」

難しい時期だとしても、さすがに『ぶっ殺す』はひどくない? 古賀さん?


古賀さんのお母さんの胸が大きいことは、ブラの件で分かっているけど

机の上に胸が乗っている。凄いインパクトだな。


「今村君って、どのあたりに住んでるの?」

古賀さんのお母さんが僕に尋ねてくる。


「○○小学校近くです」

自宅から徒歩数分で着く。当然、僕はその小学校に進学している。


「あらそうなの。千夏ちゃんは〇△小学校よ」



○○小学校と〇△小学校も、徒歩数分で着く距離だ。

卒業後は、それぞれ○○中学校・〇△中学校に進学する。


住んでいる地域で進学する小学校・中学校が変わるが、僕の家と古賀さんの家はその境目あたりのようだ。だから、近くに住んでいても接点がなかったのだ。


「そっか~。近くに住んでるのね。いつでも遊びに来てちょうだい」


「はぁ…」

お土産を受け取ったら、今度こそ会わないと思うけど…。



 足音が聞こえたので音のほうを観ると、古賀さんがリビングに入ってきた。

「今村。さっきはゴメン。『ぶっ殺す』は言い過ぎたわ」


古賀さんはお母さんの横に座った後、僕に謝ってきた。


「そうよ。女の子が使う言葉じゃないわ。気を付けなさい」

古賀さんのお母さんが古賀さんをたしなめた。


「気にしてないから、古賀さんも気にしないでね」

細かいことをネチネチ気にする男だと思われたくないので、フォローする。


「そう…? わかったわ」

表情が明るくなる古賀さん。彼女もお菓子をつまみ始めた。



 「あー! 母さん、また下着を外に干してる」

僕がお菓子の個包装を開けている時、古賀さんが声を上げた。


古賀さんが観ている先を見る僕。


どうやらベランダに干してある、黒くて大きなブラに対して言ってるようだ。


「室内干しだと乾きが悪いのよ。やっぱり外に干さないと…」


ブラって、Tシャツみたいにパッと乾いてくれないの?


「そうじゃなくて、また落とすかもしれないじゃない。大丈夫なの?」


「もちろん。ちゃんと留めてあるから安心して。千夏ちゃん」


「でも今村の時は落としたわよね?」

古賀さんはお母さんの言う事を信じず問い詰めている。


「あの時は干そうとした時に虫が来たのよ。ブラを持ったまま追い払ったから、うっかり手を放しちゃって…」


なるほど。そういう経緯で落としたのか。


「そう…。なら良いわよ」

古賀さんは納得して再び着席した。



 「ずいぶん長居してしまいました。僕は帰ります」

お土産だけ受け取るつもりが、それとは別のお菓子とお茶もいただいてしまった。


僕は立ち上がり、カバンを持った。


「今村君。お土産を忘れずにね」

古賀さんのお母さんは、棚の上に乗っている紙袋を渡してきた。


「ありがとうございます」

忘れずにお礼を言う僕。


「さっきも言ったけど、また遊びに来てちょうだい。それと千夏ちゃんをよろしくね」


「ちょっと!? 母さん止めてよ」

恥ずかしがる古賀さん。


「千夏ちゃん。今村君を送ってあげて」


別に1人で良いんだけど、古賀さんのお母さんの好意だしなぁ…。


「…良いわよ。どうせ部屋に戻るつもりだし」

玄関に向かう途中に、古賀さんの部屋がある。僕はついでだ。


「では、お邪魔しました」

僕は座ったままの古賀さんのお母さんに頭を下げ、リビングを出た。



 玄関に向かう僕と後ろから付いてくる古賀さん。

古賀さんの部屋の前を通ろうとした時、彼女の部屋の扉が半開きだった。


「今村、部屋の中を観るんじゃないわよ!?」


古賀さんも扉が半開きであることに気付き、僕に注意してくる。


そう言われても、好奇心を押し殺すのは難しい。


僕は古賀さんの部屋を覗いてしまった。部屋にあったのは…。

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