空から舞い落ちた大きなブラが、僕と彼女を引き合わせる

あかせ

彼女との出会い~付き合うまで

空からブラが!?

 高校最初のゴールデンウィーク明け初日。僕は寝坊してしまい、高校までダッシュしている。高校が徒歩圏内である事と、昨日遅くまでゲームをして油断したせいだ。


曲がり角を曲がり、高層マンションの下を通った時、急に片目が真っ暗になった。慌てて立ち止まる。何が起こったんだ?


何かが目に被さっている? それに、ヒモみたいな細いのが首に当たっているな。

急いで被さっている物を取ったところ、なんと赤い大きなブラだった。


どうやら、カップの部分が眼帯のように片目に被さったようだ。そんなことある?



 このブラは、上から落ちてきたものだ。持ち主はいるかな?


僕は高層マンションを見上げてみた。すると、4階辺りのベランダにいる女性が僕に手を振っているように…見えた。


女性は部屋に入っていった。これから僕の元に来るのかな?


…ちょっと待てよ。あの女性が来るまで、僕は赤い大きなブラを持ちながら立ち尽くせと? 状況的に不自然だ。不審者確定じゃないか?


僕は鞄でブラを隠しながら、女性を待った。頼む、早く来てくれ。



 女性は僕の元に駆け寄った。やはりあの人が、赤い大きなブラの持ち主か。


身長は僕より高い、大人の女性だ。ブラと同じく、胸の存在感が凄いな。

小柄な僕のほぼ真正面に胸があるから、目のやり場に困る。


「ごめんね。君。大丈夫だった?」

女性は少し身をかがめて僕に言った。


「はい。大丈夫ですよ。…これ、お返しします」

僕は女性にブラを返した。


「ありがとう。…ねぇ、君の制服、のだよね?」

女性は、僕が在籍する高校を当てた。


「そうですけど…?」


「実はうちの娘も、保坂高校に通っているの。君と同じで今年入学したのよ」


身長で1年だと思われたか。

間違ってはいないけど、悔しいなぁ…。


「君のクラスに『古賀』という女の子はいるかしら?」


「古賀さん…? 古賀千夏こがちなつさんが同じクラスですが?」


「その千夏が、うちの娘なの。君と同じクラスなんて、偶然ね~」


「そうですね…」

さっきから古賀さんのお母さんと話してるけど、何か忘れてる気が?


「君、登校時間大丈夫? 千夏はだいぶ前に登校したけど…」


…そうだった。僕は遅刻しそうだったんだ。


「遅刻しそうでした。教えてくれてありがとうございます」

ぶっちゃけ、もう間に合わないけどね…。


「最後に、君の名前を訊いてもいいかしら?」

もう会わないと思うけど…。名前を訊くのは、大人のマナーなのかな?


今村玲いまむられいです。…では」


僕は古賀さんのお母さんに頭を下げた後、再び学校に向けてダッシュした。



 遅刻が確定した僕は、校門前で生徒指導の木村先生に怒られた。

幸い、仲間が結構いたので安心できたよ。


朝のホームルームの途中に教室に入る僕。

クラスメートが見てくる。…恥ずかしいな。


僕は自分の席に着席する。


「今村、遅刻して聞けなかった部分は、誰かに訊いておきなさい」

担任が僕に言ってきた。


「はい。わかりました」

どうせ重要なことは言ってないだろう。僕は一応答えておいた。



 今日はゴールデンウィーク明け初日なので、ホームルームだけで終了だ。

今は、あいだの休憩時間になる。


「今村、ちょっと良いかしら?」

自席でぼーっとしている僕に、女子が声をかけてきた。


声の主を確認すると、古賀さんだった。

今まで話したことないのに、何の用だろう?


「古賀さん? どうしたの?」


「実はさっき『千夏ちゃんと同じクラスのって子に助けてもらっちゃった。てへ。』というメッセージが母さんから来たの」


そんな事をわざわざ伝えるのか。仲が良い親子だな。


「もしかして、今日遅刻したのって、母さんが関係してる?」

古賀さんが不安そうに訊いてきた。


半分そうで、半分違う。確かにブラの件がなければ遅刻しなかったけど、そもそも僕が寝坊しなければ済む話だったんだ。古賀さんのお母さんを責める資格はない。


「………」

どうしたものかな~? 悩む。


「その沈黙は、無関係ではなさそうね。後で厳しく言っとくわ」

古賀さん、お母さんにも遠慮なく言えるのか。凄いな。


「…それで、母さんはあんたに何をやったの?」


「え?」

ちょっと待て。あのブラの件を話せと?


「何が起こったか気になるじゃない。…別に悪い話じゃないんでしょ? 話しにくいこととは思えないけど。今村は助けた側なんだし」


古賀さんが追及してくる。…仕方ない。話すか。



 「はあ!!? 母さんのブラを拾った!!?」

古賀さんの声で、一部のクラスメートが僕達を観る。


「古賀さん。声が大きいって」


「あんた、助けたふりして盗もうとしたんでしょ?」

下着泥棒を観るような目で僕を観る古賀さん。


「そんな訳ないよ。だって僕、古賀さんの家を知らないじゃないか」

『しらみつぶしに探したんでしょ』と言われたらお手上げだ。


「…それもそうね。ごめん。勘違いしちゃった」

素直に謝ってきた古賀さん。


意地になって反論すると思った。


「わかってくれたならいいよ」



古賀さんの誤解は解けたものの、一部のクラスメートの視線が気になる。

すぐ忘れてくれるでしょ。…ね?



 休憩時間が終わり、ホームルームが再開される。

担任は席替えを提案してきた。GWゴールデンウィーク明けで気分を一新させるためだそうだ。


多くのクラスメートが賛成したので、行うことになった。



くじ引きの結果、僕の隣になったのは古賀さんだ。


「隣は今村か。母さんの件もあるし、なんか縁があるわね」


「そうだね。これからよろしく頼むよ」

僕は古賀さんに挨拶することにした。


「こちらこそよろしく」


良かった。さっきの件は引きずっていないようだ。



 ホームルームが終わった。これで帰れる。

僕が席から立ち上がった時、隣の古賀さんに声をかけられた。


「どうしたの? 古賀さん」


「母さんがあんたにGWのお土産を受け取ってほしいってさ」


「お土産?」


「GWに、私達家族含む親戚一同が祖父の家に集まったんだけど、遠くの親戚も来てね。ご当地のお土産をもらったのよ。ただ、その量が多くて扱いに困ってたの。だから、あんたに渡して減らしたいんだって」


「それ、本当に僕で良いの?」

まったく関係ない僕が、お土産をもらっちゃうけど?


「母さん、あんたのことが気に入ったらしいよ。ってね。『息子が欲しい』って言ったのを前に聞いたことあるわ」


男に小柄とか可愛いって、結構傷付くなぁ…。

古賀さんのお母さんに悪気がないのはわかっているから、何も言わないけど。


「そこまで言ってくれるなら受け取るよ。どうすれば良い?」


「これからあたしの家に来て。すぐ渡すらしいよ」

そう言った古賀さんは、スマホをいじり始めた。お母さんに連絡かな?



古賀さんのお母さんが僕の名前を訊いたのって、こうするつもりだったのかな?

また会う事になるとは予想外だけど、まぁ何とかなるか。

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