05 返済期限まで残り99日


「——あら、お帰りなさい」


 店へ戻ると遥が箱にケーキを詰めていた。カフェスペースにはちょこんと座る学生がいる。


(中学生? あぁそうか、祝日だったな今日)


 秋分の日。バイト以外で外に出ないため、日にちの間隔が少々おかしくなる。

 体感的に今日は木曜あたりだ。


「こんにちはー、ゆーずちゃん!」


 小萩がニコニコと笑って制服姿の少女に手を振った。

 部活の差し入れだろうか、学生は「おはようございます」と言ってペコリと頭を下げると、遥から大量のケーキを受け取り、店の外へ出て行った。


「どうだった? 説得うまくいった?」


「年内まで待ってくれるそうです」


「本当? それは良かったわ。これでもう少し、みんなと働けるわね」


 景虎の回答に遥が嬉しそうに笑い、そのまま厨房へ声をかけた。


つきちゃーん。お店続くわよー」


「そうですか」


「うわ⁉」


 景虎の後ろから月見が現れた。


「あ、月ちゃん、おはよー」


「おはようございます。小萩姉さん」


 月見が礼儀正しく、小萩に向かってお辞儀をする。

 ちなみに『姉さん』というのは、仕様だ。小萩が『おねぇちゃん』と呼んでほしいとリクエストしたところ、そこに落ち着いたらしい。以前、小萩がやや残念そうに語っていた。


「では、来週のシフト表流します」


 月見がそう言って、制服からスマホを取り出し、カメラを起動する。


「………………」


 しばし沈黙、そのまま数秒。


「…………撮ろうか?」


「お願いします」


 月見からスマホを受け取り、写真を撮る。それをグループラインに流す。

 するとすぐにピコンと自身のスマホが鳴った。シフト表を片手にスマホ画面を眺める。


(えーと、水、日……)


 モーニングの定休日は毎週火曜。

 景虎の勤務日は週二日、七時間勤務。時給八八〇円(最低賃金以下!)。

 なお、シフトは週単位で決まる。


「遥さん! 月ちゃん! 作戦会議です!」


「作戦会議ですか?」


 小萩の言葉に眉ひとつ動かさずに返答する月見。

 ロボットですら表情がある昨今、精巧な顔立ちが勿体ないほどに表情筋が死んでいる娘だ。

 月見兎羽梨つきみとばり。その髪どこで染めたんだ? と思うようなサラサラストレートな白銀の髪に、知性的な黒い瞳。当店自慢のメイド服(クラシカルタイプ)を身に着け、頭には控えめなカチューシャをつけている。有名ありな高校一年生。ホール担当。


「うん! お店の売上アップを考える会議! 月ちゃんも一緒に考えよー」


「いえ、ホールがあるので」


 月見はバッサリと小萩の言葉を切ると、角砂糖の補充をし始めた。

 朝から自分と小萩が神社へ行ってしまったので、カフェスペースの準備が整っていないらしい。すまない。


「それならこうしましょう? 月ちゃんはホール。私と小萩ちゃんと景虎くんは会議。どうかな?」


「どうかなって、彼女一人に任せるのは流石に……客を待たせてしまうでしょう」


「大丈夫よ。あまり来ないから」


「そうですよね。いつも暇だもん」


「はい。眠くなるくらいに」


「………………」


 景虎の言葉に三人揃って悲しい現実を突きつける。


(よくいままでやってこれたな、この店……)


 平日の来客数はおおむね七、八人程度。休日はそこに毛が生えたくらいだ。

 詰んでいる。

 よく考えたら赤字すぎる。

 そしてこれからそれを話し合うことになる。

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