9.5話 エイト感動中 〜「い」で終われば感情を表す言葉になると思っているエイト〜

 俺はその日、いつもの散歩コースを愛犬と並んで歩いていた。リリーはゴールデンレトリバーで、このふさふさの毛並みと愛くるしい垂れ目がチャームポイント。街を歩けば通りすがりの人に声をかけられることも少なくない。

 今日も、カフェから出てきた二人組みがリリーに引き寄せられてきた。こちらに駆け寄る黒髪の若い男性を、ブロンドの紳士が呼び止めている。


「あの、触ってもいいですか?」

 黒髪の男性に、キラキラの瞳でそう問われた。こんなに眩しい期待を寄せられては、無下にできるはずもない。喜んでリリーを座らせた。

「どうぞ」

 彼もリリーの隣にしゃがみ、頭を撫でたり首元を触ったりと、ふさふさの毛並みを堪能している様子。

「エイト、とても嬉しそうですね」

「うんっ! いますっごくもふい!」

「もふい……」

 するとブロンドの紳士も「失礼します」と詫びつつリリーの背を撫で始める。

「なるほど。これはかなりもふいですね」

「でしょう?」

 しばらくの後、お礼を述べ二人仲良く去っていった。その背を見送りつつ俺もリリーを撫でてみたが、「もふい」とは何なのかよく分からなかった。だがあの二人の笑顔を見る限り、きっとポジティブな表現に違いない。

「よかったなリリー。もふいってよ」

 そこはかとないほのぼの感を残していったお二方は、同じ街に住んでいるのかな。そんなことを考えながら家路についた。





【もふいとは、もふもふしている生き物に出会えた嬉しさと、感動的な心地よさが混ぜ合わさった素敵な感情(エイト談)】

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