第3話 残った話

「今日は、何作ろうかしら?」


眞奈は、まだ眠たい頭に手を当てて、起き上がる。

眼の前は見知らぬ光景が目に入る。少しの間は驚いていたが、すぐに連れて来られてしまった事に気が付き冷静になる。


焦るように起きて、辺りを見回すと、昨日会った貴音が料理を作っているようだった。


「あら!丁度よかった。今、なにか食べたいものってある?朝ご飯作るのに思い浮かばなくて」


「今は、お腹空いてない」


「あら?そう。なら無難にパンとジャムを…」


上機嫌なのか、鼻歌を混ぜながらパンにジャムを塗る。

包丁を持って野菜を斬るが、所々危なっかしくて、ヒヤヒヤとする。


「お腹が空いたら食べて頂戴?」


「わかった」


「まだ朝早いから、ここに暫く居て大丈夫よ」


その後すぐに、部屋から貴音が出ていく。

ふと目に入った時計を見ると、まだ七時を回っていなかった。その所為か、外も薄暗く感じる。


「…ご飯、食べよ」


久し振りの食事。その事を食べながら思い出す。

なぜ、餓死しななかったのか。これものおかげなのだろうか。

眞奈は頭を悩ますが、すぐに考えるのをやめる。そこでやっと気付く、自身が泣いていることに。


「もう、一度、会いたい…」


自然とその言葉が出てくる。


食べ終えた眞奈は、食器を洗い、部屋から出ずに物思いに耽る。

気づいたら隣には貴音が立っており、話しかけてくれるまで、まったく気付かなかった。


「大丈夫?」


「……わかんない」


「そう。なら、話なら聞けるわよ?話すだけでも少しは楽になるわ」


「私は…」


そうして、いろんなことを貴音に話す。彼女はそれを真摯に向き合って、話を聞く。

話を終える頃には貴音が、眞奈の事を優しくて撫でていた。


「そうね。話してくれて楽になった?」


「えぇ。さっきよりはマシになった」


「そう。それで、組織に入るって話、覚えてる?」


「入る。もしかしたら、があるかもしれないから」


「そんな能力を聞いた事はないけど、探すんだったら手伝うわ」


「うん」


「あと、入るんだったら…これ」


貴音は一枚の紙を引き出しから出して、眞奈に渡す。


「申請書?」


「そう。一定の実力を示せば、どこの部署でも入れるっていうモノでね?眞奈ちゃんは、五月雨さんを倒してるから実力はあるし、ね?」


そうして、眞奈は紙の文章に目を向ける。


「貴音はなんの部署なの?」


「私?私は、これでも偉いから、医療関係の最高責任者なのよ。だから、医療部門かしら」


さらっと重要な事を言う。どうやら、結構な重役を担っているそうだ。


「そうなの!?」


「なんなら、ココちゃんは機動隊を率いてる最高幹部なのよ?ちなみに私も最高幹部よ」


眞奈は急な情報に対して、少しパニックを起こしていた。

昨日会った二人が、この組織の最高幹部の二人だったとは、誰が思うことだろうか。


「それって…?」


「それじゃ、私はそろそろ仕事に行かなくちゃだから、後から来るカナちゃんに話しを聞いて頂戴」


カナちゃんとは誰か、それを聞く前にもう、部屋から出て言ってしまった。



――――――――――



それから暫くした頃、扉からノックが聞こえる。

眞奈は、それを聞いてそそくさと扉まで行き、鍵を開ける。


「貴方が、眞奈さん?」


「えぇ…」


「私は三輪ミワカナデと言います。これからのことは姉から聞いています」


貴音の妹を名乗るその人は、本当に妹なのか、と思わせる程、話し方に面影がなかった。


「貴方は…本当に妹?」


「よく言われますが、私は貴音のしっかり血の繋がった妹です!」


「そう…」


「それはさておき、そちらについて説明させていただきます。まず簡単に言うとするならば、自身が行きたい部をこちらの紙に明記していただき、私や貴音に渡してくださればあとは色々としておきます」


「そう」


「それで、まだどこの部もしらないと聞いていますので、こちら、資料と案内書を用意しました。存分にお使いください」


そうして、眞奈は奏が部屋を出て、少しして、読み終えてから外へと出たのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る