第三十二話 ☆ユニークスキル

 


 里葉と入った喫茶店にて。スマホを操作して、『ダンジョンシーカーズ』のステータス画面へと移行する。



 プレイヤー:倉瀬広龍


 Lv.52


 習得パッシブスキル

『武士の本懐』『直感』『被覆障壁』『翻る叛旗』『一騎駆』『魔剣術:壱』『魔戦術:壱』


 習得アクティブスキル 

『秘剣 竜喰』


 称号

『命知らず』『天賦の戦才』『秘剣使い』『魔剣使い』『城攻め巧者』『隻騎の兵』『恐れなき勇士』


 SP 130pt




 D級を三つ攻略したのと今日C級を攻略しボスと交戦したおかげで、レベルがかなり上がっている。主にC級攻略の経験値が大きいようだ。


 それに加えて称号が三つ増えている。他の称号と同じく、また習得可能スキルが開放されているっぽい。



 称号『城攻め巧者』


 いくつもの城を“完璧”に陥落させたものに与えられる。攻城戦の際身体能力を強化し、経験値取得量を上昇。



 称号『隻騎の兵』


 単騎での戦闘に熟達したものに与えられる。単独行動の際身体能力を強化し、経験値取得量を上昇。


 

 称号『恐れなき勇士』


 恐怖を自ら克服し、戦いに臨むものに与えられる。



 スマホ画面。新たに増えた項目を、クリームブリュレを食べながら覗き見た里葉が言う。


「なんか……やたら和風ですよね……」


「それはずっと前から思っている」


 そういうふうに出来ていないはずなんですけどね、と里葉が呟く。そういうふうにとは言っているけれど、一般的な他のプレイヤーのステータス画面ってどんな感じになっているのだろうか。


 D級を三つ踏破したのと今回のC級攻略もあってレベルが上がり、SPが130とかなり増えた。これを使えばまた自身の能力をアップデートすることができる。里葉に相談しながら決めよう。


「なあ。里葉。参考程度でいいんだが、俺はどういうスキルを取っていけばいいと思う?」


「……ヒロ。まず、貴方はこの『ダンジョンシーカーズ』がいかにして貴方を強化しているか分かりますか?」


「いや知らない。そこあたりの話はまた今度って言って、解散したからな。あの日」


 彼女がかちゃりとスプーンを動かして、クリームブリュレを食べる。一欠片も残さんと言わんばかりに、めちゃくちゃ丁寧に食べていた。


「端的に説明すると、パソコンにプログラムを入れるみたいな感じで、能力を行使出来るように『ダンジョンシーカーズ』が使用者の魂に術式を書き込んでいるんですよ」


「なるほど?」


「私たちが魔力を行使しているのは魂からなんですけど……そうだ。ヒロ。一つの球体を想像してください」


 彼女がスプーンを白い皿の上に置き、人差し指を立てる。


「DSは魔力といった特殊能力を司る『魂』という球体の表面に術式を書き込んで、能力を与えているんです。書き込める量に限界はありますが、その球体っていうのはレベルが上がるにつれて段々と大きくなっていきます。すると書き込める面積が増えて、また能力を得られると」


「……その面積を表したのが、SPってことか?」


「そうです。で、ここからが問題なんですけどその書き込む術式って、結構被る部分が多いんですよ。そこで被る部分を圧縮すれば効率化することができる。それが、『ダンジョンシーカーズ』でいう最適化や発展です」


 彼女が名残惜しそうに、空になった器をさげた。そんなに、美味しかったのだろうか。お土産で一個、買おうかな。


「すなわち何が言いたいのかというと、系統は全力で固めた方が良い。そうすれば術式の効率化を通して、ただ書き込むだけだったら得られない実力を得られる」


 少し休みを入れた彼女が紅茶を飲む。


 里葉が『ダンジョンシーカーズ』の仕組みの説明を終えた。いやそりゃおかしいしヤバいとは思ってたけど、このアプリに俺魂とかいうなんか握られてるのか……?


「魂に書き込むとかなんとかって、陰謀論もびっくりの話だな」


「『妖異殺し』からしたら普通なんですけどね。数百年前から『術式屋』はいますし、実際私もビッシリ書き込まれてます。『ダンジョンシーカーズ』は革命的な技術ですが、あくまで魂に術式を書き込むアプリですので魂そのものの破壊とかはできません」


「……へえ」


「他にも細かい話は沢山あるんですけど……とりあえず、ヒロはごりごり和風あたっくで良いと思います。魂と術式の相性もありますし、もうそっちに振り切っているので」


「わかった」


 彼女のアドバイスを踏まえながら、習得可能スキル欄を開きチェックしていく。やはり『秘剣使い』の軽減が適用される剣関係と、和風あたっくで良いだろう。和風あたっく。


「それと言い忘れていましたが、SPは『進化』のためにしばらく節約していた方が良いと思います。スキルを最適化し更に加筆して、自分だけの術式とする『進化』は非常に強力です。SPをすごい食べますけど、スキルを三つ四つ取るよりも、こちらの方が良い」


「里葉の透明化も、同じようなものなのか?」


「そうですね。故に私と完全に同じ能力を持っている妖異殺しは存在しません。こういったオンリーワンの能力。『ダンジョンシーカーズ』で言うユニークスキルを持つ人間を、高位の妖異殺しとして扱うのです。まあ、玉石混交ですけど」


 ふうと一息ついた彼女が、一仕事終えたような素振りを見せる。本来は得ることができなかったはずの情報を、彼女のおかげで入手することができていた。


「ありがとう里葉。征くべき道が見えた気がする」


「では、ヒロ。今何か取得してしまいますか?」


「そうだな……今の話を踏まえた上でいくと……これだな」


 前々から考えていたスキルのリストに加え、今取得できるようになったものを見て考える。和風、和風かぁ……



 パッシブスキル

『落城の計』

 必要SP30


 攻城戦における戦況の把握を容易にする。防衛機構の存在を看破し、弱点を見出すことが可能となる。



 先ほどの『城攻め巧者』から習得可能になった『落城の計』というスキルを習得した。パッと見た感じ、今後のダンジョン攻略で腐らない、汎用性のあるスキルだと思う。


 さらに、最適化可能……というか進化可能スキルを発見する。


「なあ。里葉。進化可能スキル、あるぞ」


「えっ……本当ですか?」


 画面に表示された式を見て、そのコストの重さにひどく驚いた。


『命知らず』+『恐れなき勇士』+『隻騎の兵』=『???』

 必要SP100



「えげつないな……」


 まさかの三桁。称号三つ飛ぶし。しかし、これの1.5倍のコストがかかった『秘剣』ってやっぱりイカれてたんだな……おかしい。


 だが、やらない理由はない。かなり驚いた表情をしている里葉を置き去りにして、進化ボタンを押す。『本当に進化しますか?』という確認メッセージが出てきたが、爆速でYESをタップした。


 最適化よりも豪華な、無駄に凝った演出が流れた後。虹色のエフェクトと共にスキルが表示される。かなり、ドキドキするしワクワクしている。




 ☆ユニークスキル

『不撓不屈の勇姿』


 命知らずだった男は、敵を知り数多の戦を経てなお死地に臨む戦士となった。


 常時発動パッシブ

 どんな危地であろうとも決して挫けない不屈の精神を持つ。ありとあらゆる恐怖に対して、能動的に立ち向かう意志を補助。


 能動発動アクティブ


 身体の限界を越える。




 迷うことなくスキルを進化させた俺を見て、彼女が呆れがちにため息をついた。


「まさか目の前で高位の妖異殺しの境地に至られるとは思いませんでした」


「お、おう……しかし……これは強いのか?」


 彼女の方にスマホを差し出して画面を見せる。記された文面を見て、かなり険しい顔になった里葉がゆっくりと語り始めた。


「強いか弱いかで言ったら、多分微妙です。身体の限界を越えるなんて、反動がどうなるかも分からない」


「そうだよな……」


「しかし、この境地に今の段階で至ったことは喜ぶべきですよ? もしかしたら、この能力と別の能力が相乗効果を生んでえげつない戦闘理論ができるかもしれませんし」


 励ますようにフォローした彼女が、気遣うように俺を見ている。確かに、里葉が持ってるっぽい能力に比べたらめっちゃ弱いよな……まあ、いいだろ。まだ実際に確認したわけでもないし、潰しは効く。


 俺も彼女もスイーツを食べ終え、そろそろ退店しようという時間だ。


「まあスキルはともかく、ありがとう里葉。これで征くべき道が見えた気がする」


 立ち上がった彼女が、最後に言葉を残す。


「ではヒロ。今後は私と一緒に渦の攻略に乗り出すということで、よろしくお願いしますね」


「ああ。じゃあ、今から行くか。C級」


「え」


 本気ですか? とやたら聞いてくる彼女と一緒に、お会計をして喫茶店を出た。





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