第二十五話 D級ダンジョンRTA
仙台駅前。発見したダンジョンの位置に地図アプリでピンを刺しながら、駅前にあるファストフード店で食事を済ませる。駅の近くにある商業施設のレストランとかに入ってもよかったが、そこまでうまいものを食べなくてもいい。
ハンバーガーを片手に『ダンジョンシーカーズ』を開く。人通りの多い駅前なのでダンジョンは既に制圧されてるんじゃないかと思ったが、D級ダンジョンを三つ。そしてC級ダンジョンを二つ確認した。
C級に突入する気はないが、D級に突入すべきかもしれないと考える。仙台のダンジョンを全て己がものにするには、急がないといけない。
……他のプレイヤーの成長を妨げ、自身を鍛え上げることのみに注力するのならば、D級を狩らねば。
ヴェノムの動きにより離れていたプレイヤーたちが、戻ってくる可能性もある。それを思えば、ちんたらしてられない。
スキル欄。所持していた60ptのSPを利用し、スキルを習得する。
パッシブスキル
『
必要SP40
自身の移動速度を向上させ移動しながらの戦闘に強い適性を持たせる。軍勢に一人で立ち向かう時、自身の能力を大幅に上昇。種:騎または種:車を持つ装備に騎乗した際効果をより強くする。
これは、今はもう無くなってしまった称号『一騎当千』により開放可能になったスキルだ。里葉と戦ったり、初めての経験だったからというのもあるが、今日はD級ダンジョン攻略に時間がかかった。そのことを思えば、時間短縮に使えそうなこのスキルは取るべきだと思う。『飜る叛旗』と違い、『秘剣使い』によるコスト軽減がないので結構でかいが……十分強力だろう。
加えて、『ダンジョンシーカーズ』の設定画面を開いた。あまり使うことはないかと思っていたけど、今日装備を手に入れたし、設定しておいた方が良いものがある。
そのためには一度移動した方がいいな。
駅構内にある多目的トイレへと向かった。
駅構内。空いていた多目的トイレの中に入り、鍵をかける。ここは密室。誰の目もない。本来の目的で使わないことに一抹の罪悪感を抱きながらも、おむつ交換台を机代わりにし、その上に今日買った戦闘服たちを置く。
『ダンジョンシーカーズ』の設定画面を開いた俺は、BGMの音量など一切興味のないものを無視して、一つの項目にたどり着いた。その項目の名は『ショートカット』。
その中にあるさらに細かい項目の中から、『コスチューム』を選んでタップした。また後で設定し直すが、今の俺の服を『コスチューム1』として設定する。
その後今着ている服を脱ぎ始めた俺は、今日購入した黒の戦闘服やその他装具に加え、『竜の面頬』取り出し装備した。ショートカットに登録するわけではないが竜喰を手にとってみて、鏡に映った自分を見る。
黒の迷彩服。ベルト。竜の面頬といういかついマスクに、刀を持った男。
ハリウッドが考えた現代ニンジャだぜ、みてえなそんな格好をした奴が立っていた。
夜のリトルトーキョーで戦ってそう。見た目がかなり凶悪。
……俺はイカすと思う。
今している装備を『コスチューム2』として登録した俺は設定を保存し、ダンジョンシーカーズのホーム画面へ行く。そこに新たに追加された『ショートカットパネル』という項目をタップして、それを開いた。
……よし。確かに登録されている。
スマホ画面。俺が『コスチューム1』と表示されたパネルをタップすると、今着ている格好が黒の輝きに染められ、戦闘装備一式からさっきまで着ていた服に戻った。
ダンジョンに突入するとき外でハリウッドニンジャの不審者になるわけにはいかないし、ダンジョンに入ってからゆっくりお着替えするわけにもいかない。敵地で呑気に着替えなんかしてたら、今度はパンイチで戦う羽目になる。
そこで、装備変更ショートカットという機能を使わせてもらった。今俺はショートカットキーが一面に表示されているパネルという画面を開いているが、このパネルを使用する以外にも、登録した特定の動きで行動を決定することができるようだ。
……ヴェノムが指を鳴らして魔法を展開していたのは、このショートカット機能を利用していたっぽい。指を鳴らすといっても本人の意思の元で初めてその機能は発動するらしく、マジシャンに指を鳴らしてくださいと言われて鳴らしてみたら急に爆発する、とかそういう事故が起きる可能性はゼロらしい。
今は装備変更以外必要ないが、武器を取り出すショートカットとかかなり便利だと思う。手元に投擲武器をすぐに出して、ぶん投げるみたいな。
さて、これで準備は整った。俺はちんたらしているつもりなどない。
スマホのロック画面を開き、時間を確認した。
今は夜の八時ちょうどくらい。明日は学校だ。登校するつもりだし早く家に帰らないといけない。
俺の家へ向かう地下鉄の終電は、二十三時五十九分。
……終電までにD級ダンジョン三つ、全て攻略できるか?
やるしかねえ。
一つ目のダンジョン。森林型。第一階層しかない不思議なダンジョンだったそこで、妙に腕が長い猿の群れと尻尾が異常にぶっとい狼の群れと対峙した。攻略するということにのみ焦点をおけば、全て殺戮する必要はない。
「逃げるなクソ猿ッッ!!!!」
「ピンッキィいいいいいいいいいいいい!!!!」
森林の中『一騎駆』を使用して、ひたすらボスを探し回り見つけた白い毛皮のデカ猿を竜喰で真っ二つに叩き切った。意味わかんねえ鳴き声してんな。こいつ。雑魚を殺してもレベルが全く上がらず、ボスを殺しダンジョンを脱出して初めてレベルが上昇した。
報酬部屋は、ログハウスっぽいんだけどログハウスじゃない場所。雑貨品を嵐のように接収して、脱出する。
記録:三十六分。非常に良い記録だ。しかし移動時間もある。油断できない。
二つ目のダンジョンは初めてのダンジョンを思い出す、石材でできた古城。裏世界の城ということなのか、こちらの価値観で見るとクソキモい形をしている。なんか、うねうねしてた。
ハッキリ言うと、巻グソみたいな形をしている。
今まではずっと下って行っていたのに、ここで初めて上に向かって登らされた。途中、主に革製の鎧を装備した高級なゴブリンと相対するも、竜喰の前では無に等しく蹂躙する。
最上階。巻きグソの頂点の屋上で、ボスであろう骸骨剣士と交戦する。盾と剣を持ったそいつの構えを見て、良い戦いができそうだと笑みを浮かべるも、相手の剣が竜喰に一撃で破壊され、パクリと食べられた。
……お前。
記録:一時間半。登っていくという階層の特性上、どうしても警戒して慎重にならざるを得ない場所が多く時間がかかった。落とし穴とか壁から槍飛び出てきたりしたし。後、『一騎駆』出来ない。
報酬部屋は、紫色と赤色のトゲトゲしたウニみたいなものが浮いている、謎の岩場だった。トゲトゲを収容できるか試してみたけど、容量がバカ大きくて収容できない。なんでやねん。
……なんかツルツルした綺麗な石だけ収容して、脱出した。
仙台駅周辺。疲れ切ったサラリーマン。飲み屋を渡り歩く男。歩きスマホをしながら道を行く女性。人混みの中をダッシュで進む。三つ目のダンジョンは、そこまで遠くない。
しかし移動時間も考慮すると、もし三つ目のダンジョンでこの巻クソ古城ダンジョンくらいの時間がかかればかなりギリギリになってしまう。間に合うか?
違う! 間に合わせるッ!
終電の時刻を頭にチラつかせながら、ダンジョンに突入した。
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