第二十四話 装備更新

 



 里葉に手渡された『ボックスデバイス』と俺のスマホをコードで繋げる。『ボックスデバイス』のランプに光がついて、無事それが起動したことを確認した。


 収容リストの中。合計三十個くらいのお面を回収したがそれらの評価額をさらっと見てみると、だいたいそれぞれ二百万円くらいの値段がついている。


 こんな簡単に大金が手に入るなんて……今回の攻略でいくらになるんだ? しかも、里葉の話を聞けばこれは運営が提示する最低価格だ。もっと高く売れる可能性もある。


 スマホの中。アイテムを一つ一つチェックしながら、『ボックスデバイス』にアイテムを転送していく。どうやらこの箱は、スマホの何十倍もの容量があるみたいだ。この箱、プレイヤー全員に渡されているわけではなさそうだし、プレイヤーのほとんどがその場でアイテムを売ることを求められているんじゃないだろうか。


 あ、後は顕現させて普通に保管しておくとかか。危険だけど。


 アイテムを確認していく中で、自分で使えるものがないか探してみる。それと、とりあえず人間の顔に合わない昆虫用のヘルメットは運営に売却した。10000ポイントが俺のスマホに振り込まれる。


 何かと入り用になるだろうし、少し換金しておこう。流石に、もうそこらへんの店で買った服でダンジョンに突入したくない。


 そんなことを考えながら、自分が装備できるアイテムがないか一つ一つチェックしていく。その中に一つ、際立って値段が高めのものがあった。だいたい、二億くらい。二億か……




 アイテム『竜の面頬めんぼお

 種:防具


 目元より下を覆う竜の口部を模した面頬。面頬をつけた状態で戦闘を行えば行うほど、戦闘時に適切な呼吸法へと使用者を矯正する。


 機能ファンクション:『詠唱破棄』




 なんだか、アイテムの説明文を読んでも良さげな気がする。スマホから面頬とやらを取り出し、手に取ってみた。


 目元より下を覆うマスクのようなその防具は、龍が口を閉じた姿に似ている。西洋のドラゴンと東洋の龍を足して割ったようなそのデザインは、普通にかっこいい。なんか、鼻とか飛び出てなくてダサくないし。


 面頬と呼ばれるものが何か知らなかったので、『ダンジョンシーカーズ』を閉じインターネットで調べる。これ、武士が戦場で着用しているお面みたいな防具の一種か。あの髭生えてるやつ。喉を守る装具が付いているものが多いみたいだけど、俺のには付いていない。面頬と形容してはいるが、正確には面頬ではないということなのだろうか。


 面頬から出ている、随分と細い紐を使って顔に固定してみる。頼りなく見えるし長時間つけていたら痛むんじゃないかと思ったが、一切の不快感がない。なんか竜喰と同じように『機能』がついているし、こいつも高級品か……外そうとしてもなかなか取れるような気配はなく、どこにも穴は無いはずなのに息がしやすい気がする。


 よし。これは使うことにしよう。あとのお面たちは、里葉の言う通りとりあえず保管しておくか。


 そう結論づけた俺は、『ボックスデバイス』からコードを抜いて、スマホに収容した。顔の防具だけ手に入れて後はアパレルなのは……ちょっとまずい気がする。何か、戦闘向きの服が欲しい。防御力、というよりは、素肌を覆っていて機能性に優れたものが良い。


 しかし現代日本で、そんな戦闘向きの服なんて売ってるのか? 里葉に聞いてみてもいいかもしれないが……


 その時、戦闘服の完璧な調達先を思いついた。


 思い立ったが吉日。今すぐ行動を起こすべきだ。


 しかし、そういや俺今日学校休んだったんだな。医者に行くと言ったものの、結局行ってないし。というか、あまりもう右腕が痛くない。今朝強い筋肉痛程度の痛みになっていたとはいえ……魔力のおかげか?


 調べたその店が、まだ閉店時間まで時間があることを確認する。急いでいけば、かなりの時間吟味することもできるかもしれない。


 急ぎ足で家を出て、仙台駅へ向かった。






 仙台駅前からかなり歩いたところ。俺の目の前には、デカデカと書かれた『サバゲー専門店』という看板がある。昔ちらっと話を聞いたことがある程度だったが、もしかしたら良いものがあるかもしれない。そう考えながら入店する。


 訪れた店内の壁にはエアガンが何丁も掲示されていて、大量に吊り下げられたハンガーにはサバゲーを遊ぶ人達が好んで着るという迷彩服がたくさんある。それらを横目に見ながら、エプロンをつけた店員さんに話しかけた。


「あー!そうなんですか! いや初めてのサバゲー! いいですね〜それで本日は当店にお越しいただいたと」


「はい。ネットで買ってもいいかなって思ったんですけど、やっぱり実際に見てその場で買いたいじゃないですか」


 愛想良く、ダンジョンに突入するための服を探しているとも思わせない態度で彼と話す。そんなやつ俺以外いるわけないか。


「いやその気持ち本当にわかります! で、戦闘服をお探しということで」


「はい。色々調べたけどあまり分からなくて……あの服とかって暑苦しかったり動きづらかったりしないんですか? あと、本物の戦闘服との違いとか」


「もちろん軍人さんが使う本物の戦闘服より耐久性が低いものが多いですが、機能性は抜群ですよ。通気性も良いですし動きやすいですから。快適にゲームが遊べます」


 店員さんが、鼻息を荒くさせながら言う。


「それに、かっこいいです!」


 確かにそれは重要かもしれない。ダンジョンを制圧する奴がかっこ悪かったらダメだと思う。


 店員さんが実際に商品を手に取り、こちらに色々見せてくれる。通気孔という服に取り付けられた穴を見たときは、そんな工夫があるんだなと感心した。俺は『被覆障壁』という直接的な攻撃に対する防御手段を持っているので、動きやすかったり戦いやすいものがいいだろう。


「あ、お客様コンバットブーツやニーパッドの方もお求めなんですね! あと、ウェストポーチも! 少々お待ちください!」


 他の装備について聞かれたときに、素直に持っていないと答えたら店員さんが凄まじいスピードで動き出した。正確に言うと、具体的な予算を口にしたあたりからウキウキしていたように見える。この人だったら、マジでいいものをお勧めしてくれそうだ。


 店内を見回しながら、店員さんがオススメの商品を持ってきてくれるのを待った。





 閉店時間も近くなった夜ご飯の時間。楽しかったですと述べた店員さんが大きな声で退店する俺に挨拶をする。それに会釈を返し、紙袋を右手に握って駅前で飯でも食おうかと考えた。


 途中、誰もいない路地裏へ向かい紙袋を収容する。ダンジョンシーカーズ様様だな。


 ……店員さんに乗せられて、予定よりもかなり買ってしまった気がする。実際、レジに表示された金額を見てビビった。


 俺が購入したのは、特殊部隊が使うという黒の迷彩服。これは動きやすいと非常に評判が良いと言った彼の言葉を信じて購入した。後、緑より黒の方がかっこよかったし。


 それに加えて、膝と肘を保護するというサポーター。ウェストポーチ。そして踏み込みやすく、悪天候にも耐えうるというブーツとなんか色々買った。あと、店員さんは苦笑いしていたけど、ホルスター型のスマホ収納ポーチも購入している。


 戦闘中にポケットの中で暴れ狂うスマホのことがすごく気になっていたから、ちょうどいい。


 値は張ったけど、アイテムを一つ売却したから金はある。間違いなく、その金額だけの価値はあった。


 仙台駅に来たついでだ。適当な飯屋でも探しつつ、ここらにダンジョンがあるか探してみよう。そう考えて、スマホで『シーカーズカメラ』を起動した。








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