第十六話 攻略:裏庭ダンジョン(2)

 


 ダンジョンシーカーズ。莫大な量のスキルが表示されているスキル欄をスワイプし、後から習得しようと考えてお気に入りの星マークを追加していたスキルたちを習得していく。


 習得ボタンを押すたびにまた心臓が強く跳ねて、全身に力が行き届いたような感覚があった。


 俺は第一階層で稼いだポイントを利用し、この四つのスキルを取った。



『魔剣術:壱』15SP(30SP)

『飜る叛旗』20SP(40SP)

『兵法:壱』25SP(50SP)

『魔力操作』50SP




 まずは一つ目。




 パッシブスキル

『魔剣術:壱』


 魔剣を使い戦う技術を習得する。発展スキルを習得していくごとに技能は洗練されていく。




 称号『秘剣使い』の効果により必要SPが半分になったこの魔剣術というスキルは、俺が先ほど習得可能になったスキルだ。


 もともとは『剣術:壱』を習得するつもりだったんだけど、魔剣術の方がなんとなく強そうだし今の戦闘スタイルに合うと思ったので、このスキルを習得した。


 実際先ほどなんとなくで使っていた、魔剣としての竜喰の能力というのを正確に把握できるようになった気がする。なんかまるで、知識そのものを自身の体にダウンロードしたような気分だった。





 パッシブスキル

ひるがえ叛旗はんき


 多数対少数の戦況の把握を容易にする。寡勢にて敵と相対した際自身の能力を大幅上昇。


 このスキルは武器種:旗の装備を掲げた際味方全体へ効果を適用する。また、武器種:剣の装備を掲げた場合でも、同様に効果を味方全体へ適用する。





 この称号『下剋上』により解放されたスキルもまた『秘剣使い』により必要SPが軽減されたスキルだ。しばらく先のことはわからないが、現時点ではソロでダンジョンに潜る機会の方が圧倒的に多いと思う。それを考慮すれば、このスキルは自身を常に強化するスキルと同義であるため、かなり使えるはず。


 味方全体へ効果を適用するという能力は、剣だと使いづらそう。






 パッシブスキル

『兵法:壱』


 白兵戦による戦闘を中心とした戦術論および戦略論を修得する。発展スキルを習得していくごとに技能は洗練されていく。





 三つ目のスキルは『兵法:壱』。要は戦い方の知識を手に入れるスキルだ。こんな状況になった時、こうすべき、だとか。戦場において思考判断を助けるスキルだと思う。


 一瞬『白兵戦の心得』と被っているような気がしたが、『白兵戦の心得』が直接的な戦闘技術だったのに対し、この『兵法:壱』は兵学的知識と差別化がなされているように思える。


 スキル名の兵法、という言葉を聞くと孫子の兵法などが頭に浮かぶが、昔は武人のことを兵法者と呼ぶ時もあったらしい。



 そして最後に。




 パッシブスキル

『魔力操作』


 体内にある魔力をコントロールする力を得る。




 必要SPが50と高めで前々から気になっていたのだが、先程『竜喰』を使った時に、このエネルギーとしか形容できなかったものが魔力なんだろう、と察することができた。その不思議エネルギー......魔力の操作を助けるスキルらしい。


 このスキルを得たことで理解したが、『被覆障壁』も魔力により構成された防壁なようだ。


 『ダンジョンシーカーズ』を始めてから俺の身体能力は人外レベルまでに向上しているが、これはレベルの上昇によるものである。そしてそのレベルの上昇というのは、俺の推測ではあるが……おそらく魔力量の上昇そのものであり、身体能力の強化は魔力によって行われているものなんだろう。


 この魔力をコントロールする方法を得たことによって短時間の間にレベル以上の力を引き出してみせたり、腕力や脚力といった特定の部分を強化することが出来るようになる。それと、魔法を使う機会があったら役立つかもしれない。


 以上四つが、今回俺が習得したスキルだ。



 一目見ればすぐ気づく人が多いと思うのだが、今回俺が習得したスキルは全てパッシブスキルである。『秘剣 竜喰』以外のアクティブスキルを習得するか悩んだのだが、短い時間とはいえ、濃密だった俺の戦闘経験から出た結論、理念を信じ、今回は習得を見送った。



 俺が信じる理念。それは、相手を選ぶ強さに魅せられてはいけないということである。



 どういうことか、考えてみよう。


 例えば、なかなかに強力なアクティブスキルを習得したとする。それは使うのがすごく簡単で、かつ多くの魔物を滅ぼせるかもしれないし、プレイヤーのほとんどだって対応できないものになるかもしれない。


 しかしながら多少カスタム可能とはいえ一つの決まった動きしかできないアクティブスキルは、本当の強者を敵に回した時、簡単に対応されてしまう恐れがある。


 そしてスキルで習得可能ということは他のプレイヤーも習得できるということで、技が割れる可能性がある。またプレイヤーと戦闘になる可能性を否定できないし、それは許容できない。


 『秘剣 竜喰』などといった希少なものを除いてアクティブスキルは習得すべきではない。自由度の高いパッシブスキルを習得し、戦い方は複雑になるかもしれないが柔よく剛を制す。


 アクティブスキルの通用しないモンスター、プレイヤーと戦う日のことを思えば、習得などあり得ない。アクティブスキルは思考停止の技。甘えだ。



 このことから俺は、真偽はまだ定かではないが地雷とされているらしいパッシブスキルに全てのポイントを費やすという、賭けに打って出た。リスクを分散させるため二つに分けるとかいうこともなく、ゴリゴリの全振りである。


『秘剣使い』の効果のおかげで必要SPも少なくなっているし、最悪修正も効くだろう。問題はない。



 習得スキルをおさらいした後スマホの画面を閉じて、ポケットに仕舞おうと思った時。スキル画面に表示された、一つのポップアップに気づいた。



「『最適化』が可能です……? どういうことだ?」


 新たに表示された『最適化』というボタンを見て、一人困惑する。説明書にも最適化なんて項目は見当たらなかったし、なんのことか皆目見当がつかない。とりあえずインフォメーションボタンを押して、詳細を見た。





 『?』最適化とは


 スキルのカスタマイズ機能『発展・最適化・進化』の三種類のうちの一つ。最適化では複数のスキルまたは称号を統合し、一つのスキルとすることが可能です。最適化を行うことにより、新たなスキルの発見が可能となる場合があります。




「聞いてねえぞ……クソ」


 こんな大事な情報を最初から書いておかないクソ運営に、普通にイラつく。説明書の隅から隅まで俺はチェックしたがこんなことは書いてなかった。


 スキル画面に表示された『最適化』という新たな項目に行くと、ある表示が出てくる。



『兵法:壱』+『魔力操作』=『???』



「相変わらずソシャゲっぽいな……」


 スマホ画面を見ながらうーんと唸った俺の前に最適化の統合案が表示されている。しかしこの手のゲームに出てくるこういった機能は、基本的にやり得なような気がしている。統合案をタップして『最適化しますか?』という質問にYESを押した。


 すると、またソシャゲっぽいスキルとスキルが合成されていく映像が流れ始めて、その後『大成功!』と大きく演出された。続いて、新たなスキルがウィンドウに表示される。




 パッシブスキル

『魔戦術:壱』


 魔力操作を習得し、魔力の存在を前提とする戦術論および戦略論を修得する。発展スキルを習得していくごとに、技能は洗練されていく。




 スキルを習得するのと同時に頭の中へ、魂へ、雪崩れ込んでくる新たな知識。これは……



 戦術を教えるこのスキルの中身は、『兵法:壱』が教えてきたものとは全く違う。具体的に言うなれば、『兵法:壱』では常識の範囲内に留まる剣と剣の戦いや戦略論を取り上げているような感じがあったが、『魔戦術:壱』は魔力というとんでもパワーの存在を前提とするとんでもありえなバトルの在り方を教えてくる。



『兵法:壱』を信じて魔力持ちの敵と本気で戦ったら、やばかったかもしれない……



『発展・最適化・進化』という三つの道があるというスキル。この事実も踏まえた上で、今後のスキルの習得の仕方、戦い方を考えた方が良さそうだ。



 第二階層。土を塗り固められてできたであろう洞穴。陽の光が届かぬ先に蠢く、数多の敵を知覚する。


 その時。何故か何も感じていなかった後方へ『直感』が働き、とっさに振り返った。



「……?」



 じっと後ろの方を見たが、ただ蟻道が続いているようにしか見えない。気のせい、ということもあるんだな。直感。今まで外したことないのに。


 気を入れなおして、ふぅと一息つき肩を揺らす。


 恐れはなく、竜喰を手にした俺はまた一歩。奥地に向かって突き進んだ。






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