第十七話 攻略:裏庭ダンジョン(3)
スキルの習得を終え一息つく程度の休憩を取った後。スマホをポケットにしまい、魔剣である『打刀 竜喰』を下段に構えて、ゆっくりと警戒しながら巣穴の中を進む。
陽光の差し込まないこの空間は真っ暗になるはずだが、ぼんやりと巣穴の壁が光るようになっていたのでその明かりを頼りに突き進んでいる。真っ暗で何も見えない、ということはなくて安心した。
竜喰を構え進む道。些細な音。振動。その全てが俺の判断を助ける材料となる。
『最適化』をしたことで合計三つのスキルを俺は習得したわけだが、今まで自分がやっていた動きがいかに危なっかしいもので、術理のないものだったかを痛感している。
戦場の知識を得たことによって、ますます武人らしい立ち回りができるようになってきた。
今こうして巣穴を歩いているだけでも、俺の防備というのは前に比べて圧倒的に堅くなっているように思う。今ならあの蟻どもが空から降ってきても対応できる自信があった。
それと、心の中で竜喰に謝罪した。第一階層の俺はただこいつを我武者羅に振り回していただけだ。もっともっと、巧く使ってやれたのに。
いくら金を積まれようがポイントを与えられようが、この剣を手放すつもりはない。相棒となるべきこいつを、もっと大事に使ってやらなくちゃ。
銀の刀身に灯る青い光が何回か点滅する。飯さえあればどうでもいいと、返事をしていたような気がした。
巣穴の中を進む。未だ敵と遭遇する気配はない。この間も緊張し体力を徐々に失っていくはずだが、リラックスして攻略できているように思う。
巣穴の壁のぼんやりとした輝きに魅せられながら、ただただ進み続けた。この蟻道は地上にいた蟻よりもかなり大きめにできているし、おそらくもっとデカい敵がいる。
蟻道だけが続くこの場所で、やっと開けた場所に出た。
巣穴の地。壁。天井に灯る輝きは立ち昇るように。プラネタリウムの中のような、幻想的な景色を前に驚嘆しながら━━冷静に、敵の存在を知覚する。
天井に張り付いていたそいつらは、降り注ぐように落ちてきて音もなく着地した。
俺が来ることを完全に予期していたのだろう。
俺の三倍以上の大きさを持つ蟻が、合計十三匹囲いこむようにしている。ギチギチと牙の音を鳴らしながら、奴らがこちらを威嚇していた。
正面三。右翼二。左翼四。後方四。
大きく発達した頭蓋に乗せられた鋭い牙と飛び出た顎は、俺の体を簡単に引きちぎってしまえそう。
これ、兵隊アリってやつか。俺が第一階層で縦横無尽に撃破した蟻はあくまで働きアリ。こいつらが巣を守る主力。本当の防衛戦力か。
竜喰を両手で構え、自身の体内を満たす魔力を操作し体に張り巡らせた。臨戦態勢。『魔剣術』の理念の元、刀を上段に構え直した俺は脚に力を込めた。
確かに、一体一体は間違いなく強くなっている。しかし、俺の成長速度の前では!
「シッ!」
竜喰に強く魔力を込めた。まずは敵の大多数がいる左翼後方に向けて━━青い魔力の剣閃を放つ。飛来するそれは胴体を真っ二つにし触角を吹き飛ばして、三体の兵隊アリを完全に捉えた。さらに、他を牽制することに成功する。
その間。正面と右翼の蟻どもを片付ける。
跳躍。脚部に込められた魔力がその動作を支援し、正面にいた蟻どもの後方に飛び出る形になる。素早く反転した俺は元いた場所に向かって走り出し、刀を三度振るった。兵隊アリの肉体を竜喰が貪っていく。多数に一人で挑む時は常に位置を変え、相手に準備の時間を与えない。
正面は片付けた。右翼にいた二体は仲間を助けようとしたのか、こちらに寄ってきている。直感がここしかないと俺の判断を肯定した。
「好機!」
右翼の二体の間を、疾風となりて駆け抜けた。右に左にと振るった竜喰は再び敵を貪り食らう。
「ハハハハハ!!」
多勢であろうがなかろうが関係ない。レベルにより強化された身体能力。スキルにより与えられた技能。知識。そして、俺自身が持つこの度胸。俺は、無敵じゃないか!
残る後方の蟻どもをこちらから斬ってかかって、討ち滅ぼす。奴らを打ち破るのに数十秒もかからなかった。
久方ぶりに、スマホの通知が鳴る。随分と上がりづらくなったような気がするが、まだまだ
ああ。この先のボスモンスターは強いのだろうか。それとまだ収容できるアイテムは発見できてないが、報酬部屋もあるはずだ。何があるのか。何が待ち受けているのか。
兵隊アリを喰らい尽くした『竜喰』の青い血脈のような輝きが、ゆっくりと脈動する。
「ああ。分かってるさ。まだ空腹なことぐらい。俺だって同じだからな。竜喰。俺だってまだまだ、求めているんだよ」
……思考レベルが、剣と同じ程度の人間がいるらしい。
先程あの蟻どもが天井に張り付いていたことを考慮して、より一層警戒を強める。部屋の角。天井。後方。はたまた、壁の向こう側。感覚を鋭敏にさせ、刀を握ったまま周りを見回す。
怪しいものもなく、敵影もない。よし。このままの状態を維持して、先へ向かおう。
刀を握る手に力を入れ直した。
俺はまだまだ満足なんてしない。もっと戦いたい。未知に触れたい。
俺は常に一歩先へ。
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