第八話 他プレイヤーとの出会い


 


 ダンジョンに突入してから、三日後。学校に行き、金曜日の授業を受け終え、家に帰ってきた。


 放課後。制服から私服に着替えて、出かける準備をする。顔を完全に晒すのはまずいかも、と思い黒マスクをして、最寄りの地下鉄に向かった。


 東京の方で使われているものとは違う、雀のイラストが記載されたICカードを使って地下鉄に乗る。そして用のある、仙台駅へ向かった。このICカード、仙台じゃ有名だけど、名前といい、別の地方の人が見たら、何これ? となるんだろうな。


 混み合う電車の中、座席に座る。ダンジョンシーカーズを開き、習得スキル欄をチェックしていると、あっという間に目的の仙台駅に到着した。


 今日、俺がここに訪れたのは、ある人物に会うため。


 あのQRコードを電柱に貼ったという、『ダンジョンシーカーズ』の女性プレイヤー。ヴェノム。フレンド申請を承認した俺は、彼女と何回かやりとりを続け、今日、会うことになった。


 何の理由で、QRコードを電柱に貼っていたのか。聞きたいことは、たくさんある。


 しかしダンジョンシーカーズは何かと怪しいので、色々と油断できない。ダンジョンシーカーズには巨万の富が関わっているようなので、各プレイヤーには様々な思惑があるのだろう。


 ……ダンジョンから入手した湯呑みをゲーム内で売却して、DCという名前のポイントを入手した後、それを更に換金してみたら、一万五千円が電子マネーとしてスマホに振り込まれた。ゲーム内にそれ専用の口座が開設されてるっぽい。


 コンビニで試しに使ってみたが、他の電子決済と同じように処理されたようだ。故に、もし俺があの武器、『打刀 竜喰』を売れば、三十三億円、という大金が振り込まれる可能性がある。いや、一万五千円と三十三億じゃ桁が違うし、結局金を握ってるのは運営だから、ないだろう。そう思うけれど。


 それに、あれは強力な武器だ。武器を通して習得可能な『秘剣 竜喰』と呼ばれるスキルもあるし、手放すのはあまりにも勿体ない。


 しかし……なんだけどなぁ……


 習得可能スキル欄から、アクティブスキル『秘剣 竜喰』をタップする。




 アクティブスキル


『秘剣 竜喰』

 必要SP150


 竜の逆鱗に噛みつき、そのまま喰らい尽くして葬り去った不可避の一撃。この秘剣で、喰らえぬ敵はいない。




 この武器スキル、習得必要SPが、なんと150ポイントだった。非常に強力なスキルである『白兵戦の心得』や『直感』の五倍である。これが、頭を悩ます原因となった。


 この手のスキルを習得していくゲームでよくあるのが、序盤にSPを雑振りしすぎていて、後半息苦しくなるという現象である。


 レベルアップを通して手に入れられるSPの量は、レベルの高さに依存せず、一律10ptだ。


 ゴブリン一体を殺してレベルが上がった前と今では、SPの入手難度が違う。故に、今何を取るか、今後を思うと本当に考えなければならない。


 ここ数日間、ずっとスキル欄を見ているし、スマホの使えない学校では、わざわざスキルをノートに写して、授業中考え込んでいる。普段から勉強はきちんとしていたし、もう卒業も間近なので、サボっても問題はない。


 実際問題、他のスキルを見てみれば『白兵戦の心得』と同じように、強力そうなものが何個もあった。それらをいくつか取得したい気持ちもあるが、150ポイントと纏まった量があるのは、今だけかもしれない。


 他のプレイヤーに会おうと決意したのは、この悩みが関係している。何か情報を得ることができれば、と思ったのだ。


 改札を出て向こうから指定された、駅に近い喫茶店へと向かう。スマホを使い目的地をセットして、歩くことしばらく。店の前に着いた。


 一度深呼吸をして、覚悟を決める。その後ドアを開けて、カランカランと音を立てながら、入店した。


 白と茶色の色調で統一された店内は、落ち着いた雰囲気を醸し出していて、どこか大人びているような気がする。クラシック音楽の流れる店内では、和やかに会話をしているご婦人や、一人静かに小説を読んでいる女性客がいた。


 こちらの背格好や容姿はあらかじめ相手に伝えてある。身長は、百七十ちょい。黒マスクをしていて、白無地のTシャツに、灰色の上着を着ている。あと、黒のスキニーを履いていて、まあぱっと見、THE 高校生といった感じだ。


 こちらに駆け寄った店員さんに、予約ですと伝えた後、奥の角の席。手を振る人物がいることに気づく。あの人です、と店員さんに伝えて、彼女の元へ駆け寄った。



「こんにちは。倉瀬くん。若いのに……本当に申し訳ない。でも若い子の方が、やっぱりゲーム慣れしているのかな?」



 両手をテーブルの上で組み、そう言い放った彼女が、こちらを見上げた。裾の長いコート。ショートカットの横髪から見える、キリッとした鋭い目つき。


 知的な見た目をした、大学生くらいの女性が、そこにはいた。


「ええ。本当に、何が起きているか分からなくて困惑しています。色々、教えてください」


「そうだね。しかしまずは━━」


 彼女がふうと、一息つく。落ち着いた、凛とした声で言い放った。


「注文しようか。僕の奢りだから、好きなものを頼むといい」


 彼女が俺の先輩にあたるプレイヤー、ヴェノム。

 ダンジョンの外でも発動するスキル『直感』とレベルにより強化された五感が、彼女の存在の強さを俺に訴えていた。 





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