第七話 『打刀 竜喰』と説明書
学生鞄とビニール袋を手に提げて、家の鍵を開ける。一人暮らしにはあまりにも広すぎる、庭付きの瓦屋根の実家。
父は海外に単身赴任で、母は去年死んでしまった。それから、ずっと一人で暮らしている。もっとも、近所の人たちが何かと気にかけてくれているので、不自由していないが。
引き戸を開け、自分の部屋に入る。椅子に座ってコンビニで買ったチキンを貪りながら、スマホを開いた。目的はもちろん、『ダンジョンシーカーズ』である。とりあえず、ダンジョンの中で確認していたようにステータス画面を開いた。
プレイヤー:
性別:男 年齢:18 身長:174cm 体重:62.3kg
Lv.21
習得スキル『白兵戦の心得』『直感』
称号『命知らず』『下剋上』『
SP 150pt
レベルはオーガとの戦いで……12も上がったのか。加えて、『称号』というものが追加されている。まずは確認してみようと、表示されているものをタップして、詳細を見た。
称号『命知らず』
生命の危機も顧みず行動するものに与えられる。死の恐怖に対して鈍感という形での耐性を得る。
なんか、不名誉な称号だな。これ。しかし、効果自体は強そうだと思う。
称号『下剋上』
格上に対し”完璧な”勝利を収め、力を手にしたものに与えられる。自身よりレベルの高い敵と相対した際、身体能力を強化し、経験値取得量を上昇。
下剋上......あのオーガを倒したことで得られた称号か? そんなに強かったかなぁ。あいつ。それと、称号の授与により習得可能になるスキルもあるようだ。『下剋上』を得たことで、『翻る叛旗』とかいう、謎のスキルが習得可能になっている。
称号『
平穏の時にはなんの役にも立たぬ、天性の素質。戦う為だけに生まれてきたとも言えるその才は、波乱の道を突き進む助けとなるだろう。
……効果でもなんでもない、謎の予言が表示されていた。しかしこうして今落ち着いて、チキン片手にアプリをチェックしている時点で死には鈍感だし、現代人にしては才能がある方なんだろうな、とも思う。
加えて、新たに表示されていたアイテム欄を開いた。その中には、先ほどの湯呑みと刀が表示されている。取り出す、というボタンを押すと、湯呑みが出てきた。
パシッと手に取り、確認する。なんか、見たこともないような素材で出来ている気がする。でもこれ、一万五千円かぁ……
その後、アイテム欄に表示されている刀に目を通した。
アイテム『打刀
評価pt 22000000
時価評価額 三十三億円
「……は?」
一度目を閉じて、目頭を押さえる。その後確認したけど、まだ三十三億円と表示されていた。嘘だろ。いや待て。本当に今更だが、なにゲームの話を真に受けている。まだ詳細があるようなので、震える人差し指で『打刀 竜喰』をタップした。
アイテム『打刀 竜喰』
種:魔剣
古の時、竜を喰らったとされる魔剣。竜の生き血を取り込んだその刀身は生きており、敵を喰らい続ける。
習得可能武器スキル:アクティブスキル『秘剣 竜喰』
「序盤に出るもんじゃねえだろ……」
アイテムを顕現させ、鞘を手にし少し抜いてみる。普通、刀の抜き方なんてわからないはずなのに、自分でも不思議なほど簡単に引き抜くことができた。
隙間から見える刀身が、ドクンと、青の輝きとともに脈打った気がする。その妖しい光にドキッとして、すぐに刀を鞘へ納めた。
しかし、一応命を賭けていたわけだ。十分手に入れるのに値するだろう。今後、ダンジョンに潜ることも考えれば、強力な武器となるだろうしな。
そのまま習得可能スキルをチェックしたい気持ちもあったが、ぐっと堪えて、考えていた通り説明書を開いた。
やっとか、という思いで、ダンジョンシーカーズの説明書を読み終える。
バカ長い免責事項━━要約すると、死んでも責任負わねぇぞという物騒な言葉に始まったその説明書は、途方もない量の情報で満たされていた。
後、なまじゲーム寄りの文章にしているせいで、少し読みづらい。
説明書を読みながらノートに書き出した要約に、目を通す。
1.ゲーム内で起きた出来事は全て現実のものであり、ゲーム内の死は基本的に現実の死と同義らしい。
2.ダンジョンシーカーズの情報を漏らすことは、利用規約上禁止されており、漏らした際はペナルティがあるらしい。(何のペナルティかは謎だ)
3.ダンジョンシーカーズはアイテムの収集を目的としたゲームで、入手したアイテム及びそれを売ることで得られる暗号通貨を使ったRMT━━リアルマネートレードが可能らしい。
4.スキルやレベルはアイテム収集のための補助機能らしい。また、ダンジョン外、つまり現実でも、スキルやレベルシステムは有効で、使えるそうだ。
第四の項目に関してだが、これでは無差別に人間兵器を生み出すようなものである。その対策として、
それでも制圧出来なかった場合、運営から最強の尖兵が派遣される、と書かれている。
要は、ゲームの能力使って暴れたら、殺すと書いてあった。スマホに急にハックみたいなことして、人間を改造するような運営である。多分、できるんだろう。怖。
ここらが、このゲームの概要といったところだろうか。あとは、ゲームの説明書と同じように、親切心からの攻略情報が記載されていた。
スキルは取り直しできないので、よく考えて取得しよう! とか、レベルの高いダンジョンにはあまり挑まないようにしよう! とか、危険だと思ったら、すぐにダンジョンシーカーズを開き脱出ボタンを押そう! とか。
脱出ボタン。最初からあったのかよ。多分、ダンジョンの情報欄の下の方にあった赤いボタンかな。一応使えばペナルティとしてしばらくダンジョンに潜れなくなるらしいけど。
後、見た目や場所は常に変わるらしいが、やはり俺があの『打刀 竜喰』を手にした空間は、報酬部屋という認識で合ってるらしい。
アイテムを集めて売りに出し、一攫千金! とかいう謳い文句が、可愛いキャラクターのイラストとともに掲載されている。
加えて、報酬部屋以外にもダンジョン内に収容可能なアイテムが落ちている場合もあるそうだ。
ダンジョンを攻略した後に俺は報酬部屋に入ったが、その前に入れてしまう時もあるらしい。あんまり、ゲームっぽくないな。ここ。
アイテムの種類は様々。比率で言うと、湯呑みとかよくわからんアイテムの方が圧倒的に多いらしいが、ダンジョン攻略に役立つアイテムもあるようで、強力なアイテムはキープして探索に役立てよう! とか書いてある。
今回俺が手にしたのは武器だったが、防具とか、バフのあるアクセサリーとかも、ゲームっぽくあるらしい。
まあ、こんなもんだろう。シャーペンを筆箱に放り投げて、ノートとゲーム内で開いた説明書を閉じる。
すごく、胡散臭い。
何かと意図的に、ゲームに寄せようとしている感じがすごくある。何かを隠そうとしているような、そんな感じが、ひしひしと文章から伝わってきた。
それと、このゲームはまだクローズドベータの段階にあるらしい。いわゆる、ベータ版というやつだ。しかしこのゲームが始まってから、既に半月ほど経っているようだけども。
そんな制限されたゲームに俺が参加できたのは、あのQRコードのおかげ。
あのQRコードは、クローズドベータへの紹介状のようなものだったらしい。誰が、何の目的で、とか色々あるが━━その疑問は、すぐに氷解した。
ダンジョンシーカーズ。ホーム画面。『フレンド』という項目に、一件の通知。
プレイヤー:ヴェノムさんから、フレンド申請がありました!
私の貼ったQRコードを利用し、ゲームに参加した貴方へ。わからないことだらけだろう。先輩プレイヤーとして、是非、直接話がしたい。ゲーム内のDMを通した連絡を待っている。
「スキルを習得したり、やることはたくさんあるが……会ってみるか」
ヴェノムと名乗るプレイヤー。ゲームなんだから、そりゃ他のプレイヤーもいるだろう。一抹の不安を覚えながらも、フレンド申請を承諾し、DMを開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます