第六話 報酬部屋


 


 全身が光芒に包まれる。眩さに目を閉じて、再び開いた時。スマホから飛び出る光を受けて、ダンジョンの中に飛ばされた時のように、俺は今全く別の場所にいた。薄々予想していたもののやはり衝撃的だ。


 ボスを倒した後ということで、脱出するか、またゲームらしく報酬部屋にでも通されるのかと思ったが、そんな雰囲気は全くない。


 薄暗い空間の中。すごく埃っぽくて、思わずくしゃみをする。その後この空間が、漆喰の匂いに満たされていることに気づいた。先ほどまでのダンジョンとは違い、ここは木材と土壁で出来た何か別の建物の中のようだった。


 この空間には、雑多に色々なものが置かれている。箒やら壊れた鍋やら、日用品で溢れかえっていた。しかしながらそのどれもが一度も見たことのないデザインでできていたので、それが日用品であると気づくのに時間がかかった。


 天井からぶら下がっているぼんやりとした電球の明かりが、この空間を照らしている。ごちゃごちゃに積み上げられたものの先に、二階部分に繋がるはしごがあった。俺の真後ろには大きな両扉があって施錠されていることがわかる。



 もしかして……ここ、土蔵か? 倉庫になるっていう。



 予想だにしていなかった展開に困惑し、また何か手がかりがないかと『ダンジョンシーカーズ』を開く。ダンジョンへ突入中、という表示の下に大きく脱出ボタンが表示されていた。


 よかった。ここから出ることは、多分できるのだろう。しかしその横に脱出ボタンと同じくらいの大きさで、『収容』というボタンが出ていた。


 『収容』って、どういう意味だろう。ものは試しだ、ということで、近くに落ちていた変わった形の湯呑みを手にしてボタンを押してみた。瞬間、ありえないものを見る。


 なんということだろう。『収容』ボタンを押したのと同時に、湯呑みが光となってスマホの画面に吸い込まれた。その後、収容アイテムリスト、というところに、湯呑みが表示されている。評価額100pt……日本円にして一万五千円分? は?


 今更ながら、説明書を読んでおけばよかったと後悔する。とにかく、報酬部屋に見えなかったこの場所は実は宝の山で、スマホを通しアイテムを得られる、とかいったところだろうか。しかし、ここにあるものを全部分捕れるのかというと、そういうわけでもないらしい。容量のゲージがあって、湯呑みを収容したことにより、それが少し満たされていた。


 加えてよく見てみたら、制限時間二分とも表示されている。嘘だろ。あっという間じゃないか。


 一目見た感じ、床に落ちているものはゴミ同然のものばかりだ。あの湯呑みと同じくらいの評価にはなるのだろうが、もっといいものだとどうなるのだろう。こいつらは無視する。


 見えない部分へ行ってみようと、二階部分へ続く目の前にあるはしごへ登った。ぐちゃぐちゃに全く整理されていない一階部分とは違い、すごくすっきりしている。


 そこにはなんと驚くことに、槍に薙刀、剣、盾、戦斧と、様々な武器が積み上げられていた。重厚な、肉厚の刀身を持つそれぞれは、殺傷能力を有していることを強く訴えている。


 積み上げられた、武器の中央。恭しく大事そうに置かれた縦長の箱を見て、的にそれを手に取った。


 両手に箱を抱えた状態で、ゆっくりとはしごを降りる。ポケットからスマホを取り出し見てみれば、後三十秒。


 中を確認しようと、箱を開ける。そこには、深い藍色の鞘に収められた一本の刀剣があった。


「━━━」


 残り、後数秒。収容ボタンをタップして、刀がスマホに吸い込まれる。その瞬間。視界が、煌めく白光に染め上げられた。







 ホーホーと鳴く鳩の声。さざめく木々の音が、聴覚を刺激する。


 視界の開けた先。ダンジョンに潜り込むことになった原因の、電柱の前に俺は立っていた。日はもうとっくに沈んでいて、街灯に照らされた道の先。不気味な存在感を放つQRコードがある。


 時間はだいぶ経っているようだが、住宅街に戻ってきた。ここに戻ってきてから丁度、スマートフォンが何度も通知を鳴らしている。レベルアップなど以外にも、何かあるのかもしれない。


 スマホをちらりと見てみれば通知欄には、『レベルアップしました!』『称号を獲得しました!』『メッセージが届きました!』など、いろんな種類のものがあった。


 大きく、深呼吸をする。先ほどまで俺は確かに━━命のやり取りをしていた。しかし、それが植え付けたものは恐怖ではなく、喜びだった。


 身を包むあのスリル。可視化され表示される自身の成果。そして、多くの謎。まだまだ、あの場所にいたい。


 だけど、今は本当に疲れた。まずは一度、ゆっくりしたい。


 家に帰ろうと、学生鞄を肩に乗せ帰路についた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る