第三話 覚醒

 


 レベルが上がった、というスマートフォンの通知をタップする。すると先ほどダンジョンシーカーズを開いた時に気になっていた、ステータスという項目へ自動的に飛ばされた。


「は……? マジで?」


 そこに書き込まれていた情報に開いた口が塞がらない。



 プレイヤー:倉瀬広龍くらせひろたつ

 性別:男 年齢:18 身長:174cm 体重:62.3kg


 Lv.3


 習得スキル なし


 SP30pt



「なんで個人情報全部抜かれてんだよ……おかしいだろ……」


 ゲーム内に自分の本名も年齢も、入力した覚えはない。それに身長と体重なんて正確に把握すらしていなかったのに、妙に納得できるものになっている。


 筋力とか素早さとか、そういったRPG的表記はないが、レベルの表示と習得スキルの欄があった。



 知りたいことが多すぎる。だけど━━━━



 薄暗い道の先。その向こう側。


 またあの特徴的な、ゴブリンの足音が聞こえてくる。それも複数。しかも、知らない大きな足音もする。


 複数ともなれば、さっきみたいに簡単に撃破できるとは思えない。


「やばいやばいやばいぞ……!」


 俺がゴブリンをボコボコにしたように、あの棍棒で何度も殴られるかもしれない。棍棒についていた、どす黒い血痕。ひどく、恐怖した。


 床に松明を投げ捨てるように置いて、両手でスマホを握った。


 震える親指で、おぼつかない操作をする。習得スキル。ゲームだって言うんならこれに賭けるしかない。


 夢中でダンジョンシーカーズを操作し、習得スキル欄をタップして開く。遠くから聞こえていたゴブリン共の足音が、だんだんと近くなってきた。


 リストを何度もスワイプして、膨大なスキル群をチェックする。RPGでよく見られる、剣術だの盾術だの、火魔法だのなんだの、色々あった。魔法ってことは、MPとかを消費したりするのか? 分からない。足音が近づいてきている。早く決めないと。


 さっきはたまたま上手くいったが、俺は現代社会に生きる普通の高校生だ。戦い方なんてわからない。


 ひたすらリストをスワイプして、この状況に、俺に最適なスキルを探す。このリスト、バカ長くないか……? ふざけた名前のスキルもあるし、ますますゲームっぽい。


「……! これだ!」


 戦い方なんて知らない俺に、ピッタリなスキルを見つけ出す。それは━━



 パッシブスキル


『白兵戦の心得』 

 必要SP 30pt


 武器を使用した近接戦及び格闘戦の基礎を会得する。

 白兵戦での経験値取得量が上昇。



 人差し指が吸い込まれていくように動いて、スキルの習得ボタンを押した。ゴブリンを殺してレベルが上がった時のように、また心臓が強く跳ねて、全身に何かが行き届いたような感覚があった。




 その瞬間、否応なしに理解した。おれは、やれ、る。


 それはまるで、歴戦の武士もののふのように。




 目を凝らした道の先。おそらく曲がり角になっているのだろう。松明の明かりが敵の影を映していて、その数を視認した。



 敵数、三。ゴブリンと思わしきものが二体と、大きな奴が一体。



 床に落ちていた、血痕付きの棍棒を手に取る。棍棒を握る手に、覚束なさはない!


 一歩。力強く踏み出して、曲がり角の方へ突撃した。


 曲がり角からアホ面のゴブリンが顔を出す。その頭蓋に向かって思いっきり棍棒を振るい、ぶん殴った。奴の目ん玉が飛び出て、ぐちゃりと潰れる。まずは一匹。即座に離脱した。


「ブモォオオオオ!!!!」


 ”敵”がいると気づいた新たなモンスターが、向こう側からドスドスと飛び出てくる。一度後方に跳躍し、奴を迎え撃とうと棍棒を中段に構えた。


 ぽっこり飛び出たお腹。ゴブリンが持っていたものよりも太く長い棍棒。豚面が、フゴフゴと鼻を鳴らす。今度はオークかよ。しかし敵は、あいつだけじゃない。


 オークの背に隠れていた二体目のゴブリンが、跳躍しこちらに飛びかかる。手にした棍棒を右に振り抜いて、簡単に撃破した。壁にぶつかった奴の体は、一体目のゴブリンと同じように灰燼となり消えていく。


 後は目の前にいるオークのみ。戦いに火照る体が、奴を討ち取る方法を教えていた。


 一息で殺してやる。




 躊躇いなどない。まずは床に落ちていた松明を拾い直し、思い切りぶん投げた。


 松明は火の粉を撒き散らしながら縦に回転し、一寸の狂いもなく奴の目に直撃する。ここまでコントロール良く投げられるなんて、これもスキルの効果だろうか。


 跳ね返った松明が勢いを失った後、ゆっくりと宙を舞う。


「ブモッォオオオオオオオ!!!」


 痛みのあまりオークは手にした棍棒を落として、両手で目を抑えた。視界を失った奴は今、隙だらけ。跳躍し、右バッターがボールを打つようにして棍棒を振り抜く━━!


 奴の頭蓋に棍棒の一振りが直撃する。ゴキ、という骨が折れるような、そんな音がなった。


 しばらく経った後。ゴブリンと同じようにオークが灰燼と化す。



 立ち昇るような奴の残滓が、俺を包んだ。



 ポケットに入れたスマートフォンが、ブーッブーッと鳴った。取り出して開いた画面にはまた『おめでとうございます! レベルが上がりました!』と、記されていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る