#3

 5歳になった。


 突然話が飛びすぎだろって?

 だって五歳になるまでは外で遊んだりして体力をつけたり、本を読んで世界について見識を深めたり、妹のリアと仲良くなったりしただけだ。

 まあ仲良くなるって簡単に言ったけど実際はお世話がほとんどだったかもしれないね。もちろん僕の身体はまだ子供で、妹を寝かしつけるつもりが僕も一緒に寝てしまったみたいなこともあったけど。


 それはさておき妹の名前のことをリアと呼んでいるがそれは愛称だ。本名はアザリア=エンフィールド。可愛らしい名前だ。


 リアは僕が可愛がり過ぎたのかどこに行くのにもついてくるようになってしまった。お風呂にも付いてくる始末だ。僕だって最近メイド無しで風呂に入り始めたのにさすがに妹の面倒を見ながら入るのは無理だよ…


 最近は僕がなにかするのを真似するのが好きなようで、僕が外で遊んでいるのをみて同じように走り回っている。


 なんなら僕より走り回ってるのでは?と思うくらいだ。子供は無尽蔵の体力をもってるのではないか、と疑っている。


 …僕も今は子供でした。


 という感じで、これまで特筆すべきイベントもなく過ごしてきた。まあなにかトラブルが無くてよかったというべきかもしれない。

 せっかく転生したというのに5歳までも生きられませんでしたー、みたいなのはさすがに悲しすぎる。

 日々生きていることに感謝すべし。


 それはさておき、今日は僕の誕生日を祝う日、そして明日には念願の剣術の教師が来てくれるらしい。


「セオ、お誕生日おめでとう。」


 母様がケーキを持って祝福の言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます。母様」


 ご馳走の並んだ食卓を家族で囲んでいる。正面には父様、その隣には母様、僕のすぐ隣には妹のリアが座っている。


「兄さま、おたんじょうびおめでとうございます。これプレゼント!リアがお庭で育てたの!」


 リアが可愛らしい一輪の花をプレゼントしてくれた。いい子に育って嬉しい限り。兄妹がいることはいいものだ。


「ありがとう、リア。押し花にしてごほんを読むときに使ってもいいかな?」


 リアは僕が喜んでいるのを見て、嬉しそうに笑った。


「もちろんいいよ!」


「ありがとうリア。大事にするよ。」


 お礼に頭を撫でてあげると下を向いて照れている。かわいい。これが保護欲か…


「セオ、誕生日おめでとう。私からはこれをあげよう。」


 そういって父様はなにかを手渡してきた。


「これは?」


「明日には剣を学び始めるだろう?そのためには練習用の剣が必要だろう。身体の成長と共に剣を変えていかないと変な癖がつく。それはセオのために体格に合わせた大きさと重さになっているのだ。明日からそれを使って頑張りなさい。」


「ありがとうございます。父様!」


 初心者には自分を傷つけることのない木剣はピッタリだろう。それに子供の頃の剣術に変な癖がつく、なんて話は聞いたことがなかった。自分にあった剣を体の成長に合わせて都度選ぶことが大事だということか…気をつけよう。

 そんなことを考えているとワインを傾けている話している両親の会話が耳に入ってきた。


「しかし、子どもたちが大きくなるのは早いな。この調子だと、神眼しんがんの日ももうすぐのようだ。」


「そうですね。私のお乳を飲んでいたのが昨日のようです。でもあなた、さすがに神眼の日はまだ気が早いと思いますけどね。」


 そういって母様かあさまが楽しそうに笑っている。しかし、今しがたの会話には気になる言葉があり質問してみることにした。


「神眼の日とはなんですか?父様とうさま。」


「ん?…ああ、そういえば言ってなかったな。10歳の誕生日のことを神眼の日と呼ぶのだ。その日に教会に行って、神様から恩恵を賜るのだ。」


 八歳に神様からの恩恵?なにかを貰えるのかな?それとも形式的なものか。宗教上の洗礼とかそういう話はよく聞くがこの世界にもそういうものがあるのか。


「恩恵とはなんですか?」


「神様がそのまなこでみて、すべての人々に与える才能のことだ」


「才能…!」


 思わぬところで自分の求める「才能」を得る方法がわかった。

 ここの世界では常識みたいだったがたくさんの本を読んでもそんなことはどこにも書いてなかった。


 どうやら神眼の日に授かった才能を隠す人は多く、家族にしか話さない人が多いそうだ。公になることは少なく、僕の耳まで届かなかったようだ。


 そして何より10歳になれば才能が必ず貰えるなんて、前世にはなんの才能もなかった自分には考えられないことだ。


 密かに才能を得るチャンスがあることを喜んでいると父様が口を開いた。


「もちろん、恩恵を神様から頂いたからといっていきなりなんでもできるようになるわけではない。」


「?それってどういうことですか?」


 まさか恩恵をもらってもそれを使いこなせる人は限られているのか!?それとも恩恵にもレベルがあってレベル1とかだと使い物にならないとかか?それだと困る…


「才能は磨かなければ意味を成さない。例えば裁縫の才能を授かったとしよう。しかし、10歳の誕生日にいきなりドレスを編めるわけではない。裁縫の練習を重ね、研鑽を積むことで最終的に誰よりも素晴らしいドレスを作れるようになる、ということだ。」


 なるほど。イメージとして神様から授かったらすぐに使えるようになる気がしていた。


 杖を持ったことのないような素人でも魔術の才能を授かったら、いきなり杖の使い方や、魔力の制御みたいなものができるようになるものではないのか…


 神様から与えられるのは才能でそれ以上でもそれ以下でもないということか。


「いただけるのは才能の原石、という表現が正しいということですね。」


「ああ、才能の上にあぐらをかいていてはいけない。これをしっかり覚えておきなさい。」


「肝に銘じておきます。」


 才能さえ貰えるのならなんでもいい。しかも何の才能を磨けばいいかわかるなんてちょろすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る