1章

#1

 3歳になった。

 …何を言っているかわからないと思うが自分もわからん!


 気づいたときには3歳の幼子になっていたのだから。

 …所謂いわゆる物心ものごころがつく年齢というやつだ。


 おそらくはどこかのライトノベルのように転生してしまったのではないかと考えている。しかし、自身が生まれた瞬間のことを全くと言っていいほど覚えていない。


 転生ってやつは生まれた瞬間から物語が始まるもんだとオタクの自分としては当然のように思っていた。

 しかし、


「元気な男の子ですよ!」


 みたいな記憶も、そのような光景も今の僕の中にはないのだ。

 まあそもそも生まれた瞬間って目が開いてないし当然の話なのかもしれないが。


 どうして赤ちゃんの頃の記憶がないのかについて考えた。おそらくだが生まれたばかりでは前世の自分の意識を認識できるほど脳が発達してなかったのではないかと考えている。


 3歳くらいになって脳が活性化?して物事を認識できるようになったことで転生した自分の意識も浮上したのではないか。


 これが知恵を絞って、ひねり出した仮説だ。元理系大学生とは言えこの程度の仮説しかたてられない。

 しかも工学系だった。脳科学?とか知らん。

 それに生まれた瞬間とか、おむつ変えられるのとか覚えてないほうがいいでしょ…


 理論的な話はさておき、実体験としてはランニング中にベンチで休んでいた次の瞬間には、小さな体でベッドで寝転んでいたというわけだ。

 一瞬、倒れて病院に運び込まれたかもしれないという考えが頭によぎったが、どう考えても自分の体では考えられないほどに小さすぎる。


 は川沿いでランニングしていたら心臓発作か何かで死んでしまったのだろう。

 運動不足を舐めていた…


 こんな冷静に分析をしているが前世の自分に未練があるかと聞かれるとほとんどない。お金もなければ、恋人もいない。悔やむべきことといえば、今まで育ててくれた家族や仲良くしてくれた友人には恩返しもできず死んでしまったことくらいだ。


 お父さん、お母さん、ごめんなさい。今までありがとう。


 だがそれを後悔しても後の祭り、建設的なことを考えて、次の人生を楽しむことに尽力すべきだ。


 前世ではなんの才能がなかった自分でも、転生したら何かしらの才能があるかもしれない。


 いや、大体転生モノの主人公は皆、何かしらの突出した能力を持っている。たとえ自分の小説が存在しなかったとしても僕は主人公なんだ。そんな期待で胸が膨らんでいる。

 主人公補正みたいなものやご都合主義まであるのではないか。


 …流石にそれは期待しすぎか。あれは小説だから起きているだけで、本物の転生ではそうは行かないだろう。


 今世の僕に才能さえあればいい。例えばありがちなので言えば全魔法の適性があるとか、スキルをコピーできるとか、魔力の量が異常なほど多いとか。

 あとは地味なスキルだけどうまく使えばめっちゃ強くて、あとから見直されるとかね。追放されるのはイヤだけどね!


 死に戻りとか痛いのはちょっと御免ごめんだが…


 すごい才能さえあれば今まで何もなかった自分でも、古今独歩ここんどっぽの英雄になることだって夢じゃないのかもしれない。女の子にモテモテの男になることだって可能かもしれない。それに魔王を倒す!みたいな使命を背負っているかもしれない。


 前世で焦がれていたの二文字はここできっと手に入る。そんな気がしていた。



 とりあえずそんな未来の希望の話をしたが、現状の確認をする必要がある。

 現在はベッドに寝っ転がったまま色々考えていたが、窓の外から朝日が見えている。どうやら自分が目覚めたのは朝方のようだ。


 とりあえず誰か母親などが起こしに来るのを待つべきだろうか、などと考えていると扉をノックする音が聞こえてきた。


「セオドア様、朝にございます。」


 そう言って扉を開く音が聞こえる。


「おはようございます。セオドア様」


 どうみても、メイドだ。リアルメイドだ。

 メイドに動揺してしまったが、どうやらセオドア、というのが僕の名前らしい。


「おはよう。」


 身体を起こし、入ってきたメイドの方を見る。とりあえず返事をしておいた。


「お着替えのお手伝いをさせていただきます。」


 着替えの手伝いなんてこともしてもらえるのか…メイドもいるし、豪華な部屋で寝ていた。どうやら僕の生まれは貴族のようだ。


「ご朝食のご用意ができています。ディルク様とエリーザベト様が食堂にておまちです。」


「ありがとう。」


 ディルクとエリーザベトという名前はおそらく父親と母親だろう。


 メイドに言う通り食堂に向かう。何故か間取りがなんとなくわかるので問題なくたどり着いた。

 食堂の扉をメイドが開いてくれたので遠慮なく入る。


「おはようございます。父様、母様」


「ああ、おはよう。セオ」


 こっちが父親、おそらくディルクだろう。顔がいい、遺伝子は期待できそうだ。今度鏡で確認してみる必要があるだろう。


「おはようセオ。」


 こっちが母親、父親に続いて優しそうな美人だ。


 ふたりともすごく若い。まだ二十歳前半だろう。


 こうして転生してからの新しい家族との対面を果たした。

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