転生しても才能はなかったので妹を最強にしてみせます!

めあ

0章 はじまり

エピローグ

 大学生は人生の夏休み。


 そう口を揃えて社会人たちは羨ましがる。とくに大学四年生の夏休みなんて課題もなければテストもない。理系の自分は研究を地道に進めていって卒論さえ書いて、なにごともなければ卒業するだけ。


 就職活動もとっくに終わってしまったし、人生の夏休みという言葉がお似合いかもしれない。


 バイトをしていれば忙しかったかもしれないが、それも病気をしたときにやめたっきりだ。一度やめてしまうとまた始める気にもならなかった。それに食費などは親が出してくれている。


 ある程度の裕福な家庭に生まれ、家族に愛情を注がれ、友人もいて、受験も失敗せず、ある程度の有名大学に入学し、就職先も決まっている。大きな病気はしたが手術もうまく行った。

 そんな何不自由ない22歳。


 趣味はゲーム、アニメの典型的なオタク。

 オタクではあるが運動も好きだ。しかし病気をしてからは激しい運動はできていない。


 最近は朝起きたときに胸が痛むことがたまにあり、やばいなぁと思いつつも病院に行くほどでもないか、と後回しにし続けている。

 どうせ睡眠不足と運動不足が原因だしな。


 そんななにするでもなく、朝起きて、布団でゴロゴロし、ゲームをしたり、アニメを見たり、映画を見たり、ときどき研究室に行ってみたり、の生活。


 決して全く人とか変わりがない訳では無い。研究室では同学年と仲は良好。ゲームはオンラインゲームで顔も知らない友人と通話もする。


「つまんねぇな。」


 決してゲームが楽しくないとか、アニメが面白くないとか、そういうことではない。何かにハマることや熱中することが大学生になってからはめっきりなくなってしまった。


 何かやりたいと思ってもすぐ飽きてしまう。自分にはという才能がないのだ。


 何気なく布団でスマホをいじっていると、SNS上には小学生の時の同級生がモデルを目指して努力している姿があった。


 2つの感情が自らを支配した。

 嫉妬心と焦燥感だ。羨ましいな。自分は何をしているのか。

 そう思った。


 モデルになりたいわけではない。顔がいいことでもない。何かになりたいと思ってそれに対して努力できることがただ単純に羨まく、無意識に自分と比べてしまっていた。

 そんなネガティブな思考になっている自分に気づいた。


「久々に運動でもするか…」


 そう独りちて布団から立ち上がった。ネガティブになってしまってる理由は運動不足だと考えたのだ。

 運動している間は悶々と考えてしまうこともない。ネガティブな要素はさっさと忘れるに限る。


 のそのそと運動用の服に着替え、自室からでてリビングに向かう。


「ちょっと走ってくる。」


 テレビを見ていた母さんに声をかける。今日も今日とて暗いニュースばかり。政治やら事件やら、景気のいいニュースなど一つもない。なにげなく少しだけテレビの画面を眺めてから玄関に向かった。


「はいはい。怪我しないようにね。」


 戸締まりを確認するためか、母さんも玄関までついてくるようだ。


「わかってるよ。」


 いつもの定型文に適当に返事を返す。


「いってらっしゃい。」


 最後のも、いつも通りだった。




 自宅の近くの川沿いを走っていると息が上がっていくのを感じる。久々の感覚にちょっと楽しい。


 昔は走るのが好きで長距離競技に出ていたこともある。あのときの感覚を思い出しつつ、走り方のフォームなんかも意識して走る。ここでいままで運動出来なかった分をとりもどそう。そう思ってペースを上げていく。


 これからは運動も睡眠もしっかりしよう。身体の健康は精神の健康にも大事だ、とよく言うしな。誰が言ったか知らんけど。


 そんなことを考えていると左胸あたりに刺さるような痛みを感じ取った。激痛というほどではないが確かな痛みだった。


「あ、やば」


 さすがに自分の体に違和感を感じたので近くのベンチに座り込んで息を整えようとする。


「さすがに…はぁ…突然無理しすぎたか…はぁ」


 しかし息は一向に整わず、動悸はさらに激しくなる。汗も先程は少ししか出ていなかったが、今はダラダラと汗が出ているのを感じる。

 ここにきて自分の運動不足を痛感した。


 ちょっと真面目に走っただけでこれだこの調子だとあと何キロ走れるか、先が思いやられる。

 帰り道のことも考えて今日は、早めに切り上げたほうがいいな。


「大丈夫ですか?」


 重たい頭をあげると同じようにランニングをしていたであろうおじさんが話しかけてきていた。どうみても様子のおかしい自分を見て心配をかけたのだろう。


「はぁ…はぁ…大丈夫ッ…です…」


 呼吸の合間に言葉を絞り出す。


「久々…ッに…はぁ…とばしすぎた…だけなので…」


 見知らぬ人に心配をかけさせるのも気まずいと朦朧もうろうとした脳みそで言葉を返す。うまく笑顔ができていたかわからないが必死になって言った。そう言われてはおじさんもそこに居続けるのも悪いと考えたのか、


「そうでしたか。身体には気をつけてくださいね。」


 そういっておじさんはまた走り去っていった。あんなおじさんよりも体力ない自分が不甲斐ないばかりだ。

 まあ正直おじさんに気を使っている余裕はなかったので助かった。見知らぬ人に心配もかけたくなかったし。


 そもそもどうせ久々の運動でしんどくなっただけだというのに大事おおごとにしたくない。もう少し座って落ち着いてれば良くなるだろう。


 にしてもここまで体が訛っていたとは想像もしてなかった。こんなことなら父さんからのサイクリングの誘いとか断らなければよかったな。

 そう考えたときには、


 もう意識が暗転していた。

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