139.お昼の行方
「えぇっ!?じゃあファルケとアスルってお互い正体を知らないままゲームしてたの!?」
「うん……。私も知った時は本当に驚いたけどね」
土曜日の誰もいない学校の一教室。
そこで驚きの声と困ったように笑う2人の少女の姿があった。
彼女らこそこれまで共に戦った仲間であるファルケとセツナ。家にいるであろう若葉を含めればこの町にアフリマンを倒した仲間が勢ぞろいしていた。
「へぇ~。でも大変じゃない?アイドルとしてあんなに出まくってゲームもだなんて………あっ、だから最近IN率低いのね」
「そうなの。でも……。同じく現役で活躍しながらアフリマン攻略してた若葉さん……アスルはどうやって時間使ってたのかなって。何度か聞いてるんだけど全部はぐらかされちゃって」
2人の話題がシフトするのは時間の使い方について。
たしかにそうだ。アフリマンを倒すまで、ほとんど同じ時間にログインしていた若葉は本当にどうやって毎日生きていたのかと思う。
でも以前俺が夜に起きたことを察するに、きっと彼女は寝る時間を削って勉強にレッスンにゲームと全てをこなしていたのだろう。そう仮定すると若葉が言わないのもわかる気がする。マネされたくないものね。
「もうあんなに仲良く……やっぱりずっと一緒に遊んできた同士通じ合うものがありそうですね」
「麻由加さん……。 そうだね。なんだかんだ1年遊んできたからだろうね」
そんな2人を遠巻きに眺めていた俺にそっと近づいてきたのは麻由加さんだった。
彼女はさっきまで灯火が座っていた椅子に腰を降ろし並んで2人の様子を眺め合う。
「アフリマンの動画を見ましたけど、あの敵を陽紀くんや那由多、そして若葉さんと灯火さんで倒したのですよね?」
「うん。もうずいぶん昔のことだけどまだ半年も経ってないんだね……」
深夜2時まで続いたあの激戦。
ギリギリのギリギリ、誰かがあと一発攻撃を与えるのが遅ければ倒すことはできなかったあの日。
鮮明に記憶に残っているもののもうずいぶんと昔のことのようだ。
半年……いや、まだ四半期すら経過していないのか。アフリマン討伐後も色々ありすぎて密度がとんでもない日々だった。
「私もレベル上がってきましたし、今度なにかに挑戦する時はもちろん誘ってくれますよね?」
「当たり前だよ。麻由加さんと一緒にゲームできるなんて昔はどれだけ夢見たことか……」
「ふふっ。そう言ってもらえて良かったです。私も好きな人が好きな事を一緒にできることは何よりも楽しいし嬉しいですよ」
「…………」
そんな、臆面もなく好きって言われて微笑まれる彼女に俺は目をそらして頬をかく。
恥ずかしいから言葉を選んだというのに麻由加さんはまっすぐと……。以前と比べてずいぶんと積極的になった彼女に普段より鼓動が早くなるのを感じていると、突然麻由加さんが座ってない側である窓際から影が落ちていることに気が付く。
「……灯火?」
「私がセツナと話してる隙にリンネルとばかり話して……。浮気者」
「灯火!?」
突然何を言い出すんだ!?
逆光の中琥珀色の瞳が俺を見下ろし僅かながら金色の髪に隠れた頬が膨らんでいるようにも見えた。
俺から見てそれは明らかに冤罪なのだが……って麻由加さん!?突然腿に手を置いてどうしたの!?
「初めまして灯火さん。東京では陽紀くんがお世話になったようで」
「……ううん。私が呼んだのだから当然だよ。それにあの日は"いろいろ"あったしね」
「そうですか。私も帰ってからお話はお聞きしましたが、"色々"ありましたもので……」
…………怖い。
一見二人ともウフフやアハハみたいな感じで笑い合っているが、それとは別に副音声で会話しているような気配すら感じられる。
その"いろいろ"とはなんぞや。いや、聞きたくない。心当たりはあるけど絶対知りたくない。
「―――そうだっ!」
俺を挟んで2人の少女のほほえみ合い。
麻由加さんは腿に、灯火は肩に手を乗せて見合っている膠着状態を打ち破ったのは3人目である那由多さんだった。
パンッ!と手をたたき思いついたように近づいてくる彼女は机を挟んだ向かいに立ち全員を順に見渡していく。
「あたしとお姉ちゃんなんだけど、これから街で気になったお店でお昼食べようと思ってたの!せっかく会ったんだしお兄さんとファルケも一緒にどう!?」
「私達も……?」
一触触発の空気。それを打ち破ってまで繰り出されたのはお昼の誘いだった。
黒板上に設置された時計を見上げれば長針と短針がもう間もなく天辺で重なろうかというところ。なんだかんだもうお昼になってしまったのか。
「最近サンドイッチ専門店ができたらしいの。色々な種類もあったしデザートにはフルーツサンドやパンケーキとかもいっぱい――――」
「那由多、帰りますよ」
「―――なんで!?」
そんな空気を変える誘い。しかし断ったのは姉である麻由加さんであった。
万が一にも彼女の口から出るとは思わなかった言葉に那由多さんも驚きの声を上げる。
「どうやら今日は灯火さんが独占する日のようですから。隣にいそうな若葉さんも居ないみたいですし」
「でも……」
「でもじゃありません。それでは陽紀くん、失礼しました。私たちはこれにて退散しますので、陽紀くんも暗くなる前に帰ってくださいね」
「う、うん。ありがとう麻由加さん……」
個人的には突然のちゃぶ台返しで何が何だかという状況だが、とりあえず修羅場の幕開けにならなかったと心の隅でホッとする。
俺たちを残して那由多さんとともに教室を出ていく麻由加さん。若葉がいないから独占する日って理解は…………いやでも東京までついてきた若葉だからな……理解できなくもないかも。
「なんだか慌ただしい2人だったね」
「……いつもはあんな感じじゃないんだけどね。受験前で気が気じゃないんじゃないかな」
「そうなんだね……」
俺も知らないけど。
そう言ってフォローしながら2人で去っていった廊下を眺めているもこれ以上人の気配は感じられない。
さてもうお昼か。土曜で食堂はやってないし俺たちもどうするか……。
街かそこらの駅前か。適当にリストアップしているとトントンと灯火に肩を突かれる。
「ねぇ、陽紀さん」
「ん? お腹すいたか?」
「それもそうだけど……簡単にお昼済ませたら家に帰らない?」
「……もう時間だっけ?」
「そうじゃないんだけど……あの2人を見て危機感覚えたの。陽紀さんに見せたいものができちゃって」
危機感?見せたいもの?
なんら読めない言葉に疑問を感じながらもとりあえずお昼ということは了解した。
でもお昼ねぇ……なんか良いところあったかな?
家に帰るのならばその道中でいい感じのおしゃれな店でも――――
「―――ラーメン食べたい」
「!? ラーメン!?いいのか!?」
「ダメ? もしかして陽紀さん、キライ?」
「いや、むしろ大好きだが……」
どこか美味しいイタリアンなり喫茶店なり。
そんなオシャレな店を考えていたところに投下されたのはラーメンだった。
ラーメンだなんて、男でキライない人はほとんど居ないだろう(偏見)
「ほら、体型管理とか大丈夫か?」
「今日はチートデイって今決めた。今日は陽紀さんの好きなものを知りたいの」
「……わかった」
俺の好きなもの、と言われて喜ばない人などいない。
しかも自らの体型さえも後回しにするとまで言われたとなれば断ることもできやしない。
ならこの街で一番のラーメン屋を紹介してやろうじゃないか!!!!
―――などと心の中で豪語しつつも決めたのはせめてもの抵抗ということでお野菜たっぷり女性も入りやすいラーメン屋。
想像と違ったのか少しだけ頬を膨らませかけた彼女だったが、その味を確かめてなかなか満足のいく一品だったみたいだ。
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