第35話「いよいよ栽培開始!」
未だ夏の暑さは訪れず、春の残滓が懸命に己の存在をアピールし続ける時期。
同時に、恵みを一身に溜め込んだ天空が、我が子を産み落とす母親が如くシトシトと雨を降らせる季節が近づいて参りました。
そう、年月日で言えば、そろそろ6月でございます。
私こと
うぇへへへ、6月といえば、皆さんにとっても常識と呼べるあの時期ですよね?
そう、
ままま、簡単に言いますと、ちょん切った茶樹の枝で苗木を作って育てて、再来年の3月から4月に畑に植えるための準備を行う時期ですね。
ふふふ、本当なら茶樹とか一発で即座に生やせちゃう私ですが、再三何度も申し上げている通り、それではお茶の味に深みが出ません。
1から苗を育て、1から土を作り、何もかもを全て自然との折り合いの中で作ってこそ、真に美味しいお茶が出来るのです!
つまり、ここから私のお茶作りが、本当の意味でスタートするのです!
今から私が行うべきは、来年の春までに畑に植えるための、苗木を育てること。うぇへへ、腕がなるってもんですよ。
心和の記憶では、流石に
これからの為に、ノーデさん達の人脈を培ったと言っても過言ではない!
「さぁさぁさぁ、やりますよ~!」
私は、ゴンさん作の日本家屋にある縁側にて作業を開始いたしました。
こんな家を一週間で作ってしまう、案外短気なゴンさんですが、ことお茶に関しては『どれだけ時間をかけてでも良いから美味くしろ』イズムの実践者。協力は惜しまないと言ってくれましたし、このプロジェクトも大船に乗った気持ちで遭難覚悟しときましょ。
これが終わったら、畑にしても良さそうな気候、土壌の場所を探して、耕して……夢が広がリング。
え? あの燃えていた結界の土地ですか?
あんなん一朝一夕で解ける訳ないんですよ! あれから何度も試してますが、ゴンさんの意地悪さ加減がよ~くわかる感じに撃退され続けてます!
まるで、1から6までのマス目が全部「スタートに戻る」と記されたスゴロクみたいな結界なんです。どうしろってんですかまったくもう!
……っとっと、今はそんなフラストレーションに憤っている場合じゃありません。楽しい時間を過ごすのですから。
まずは、苗木をどれくらいの感覚で作るかですね。
本当なら種から育てたいところですが、それは心和の知識に頼ったとしても不明瞭です。
ドライアドの感覚ならば、健康状態自体は問題ない感じに育てられるでしょうが、今の時期から種を植えたのでは育ちも微妙でしょう。
ここは、素直に心和の知識とドライアドの感覚を共有できる、苗木から手を出していくべきでしょうね。
「というわけでぇ、まぁ流石にちょん切った状態の枝なんて作ってもあれですし、、素直に成長過程の苗木を生み出しちゃいましょうかね!」
そうですね、ここは来年の3月には畑に植えたいと仮定して、一年程育った苗木にしましょうか。
私がじっくりと力を込めると、掌の中心に生命の本流が生まれます。
種類は何にしましょうか……ん〜、素直に紅茶でもいいのですが、こんなにも素敵な日本家屋が建ったのです。ここは日本茶にしときましょう。
さて、日本茶といえばやはり緑茶ですよね。しかし、一口に緑茶と言っても様々な種類があるのです。
例えば、日本で最もよく飲まれていたという
そして、同じ煎茶でも広義で見ればこれまた色んな種類があり、高級茶葉である
同じ日本茶と言えど多岐に渡るこのラインナップから、何を選ぶべきか……。いえ、まぁ 番茶はお茶作ってたら自然と出てくるものですので、今回は
んー、悩ましい……。どのジャンルを選ぶかで、育てる苗も変わってきますからね。
「こんな時には……へいゴンさん~!」
『……なんだ』
コメンテーターとして、縁側でのっそりと寝転んでいた毛玉に声をかけてしまいましょう!
「質問なんですが~、緑茶というお茶の苗木を今から作ります! ゴンさんは、もっともポピュラーなお茶か、ジャパニーズワビサビに満ち溢れたお茶か、どっちがいいですか!?」
『……質問の文法はまったくもって理解に苦しむ程に頭が悪いが、茶を選ぶとあれば真面目に考えねばなるまいな……ふむ』
「ちなみに、抹茶というのは粉にしたお茶で、煎茶は紅茶のように茶葉で淹れるお茶です」
『……両方ではダメか?』
「ん~、それでもいい気もするんですが、流石に3~4年を見た計画ですし、どちらかを量産した方がどっちつかずにならないんじゃないですかねぇ」
『ふむ……』
しばしの沈黙。
そして、解答。
『……煎茶にしろ』
「ほう、その心は?」
『どうせ貴様、育てた後の加工は魔力で解決するのだろう。だったらまだ、茶葉としての形で淹れた方が味が茶として楽しめそうだ。粉では魔力が勝ちすぎるような気がするからな』
「思いのほか理にかなっててグッド! では煎茶を育てていきましょう!」
そうなると~、なるべく育てるのも失敗したくないですよね。この大陸の夏や冬がどのくらいのものかはわかりませんし、ここは耐寒性に優れた茶樹にしましょうか。
というわけで、生み出したります苗木はこちら! 大和茶というブランドに限りなく近い品種を作ってみました!
土が粘土質でも行ける品種ですし、寒さにも強い。バウムの森は頻繁に朝霧が出ますが、そういう空気中の湿り気とうまく付き合って旨味を育んでくれるんだそうですよ。
凄い茶葉ですよね! まるでいろんな男をとっかえひっかえして私腹を肥やす悪女の如き万能っぷりです!
「ふふふ……来年の春までしっかり栄養をため込むのですよ、苗木達。立派な茶樹の子供に育った時が、私の茶道の第一歩です……!」
『うむ、励めよちんくしゃ。我もその日本茶を心待ちにしておいてやろう』
ふっふっふ……さぁ、これで苗木はよし!
次は畑候補を探しに行きますよ~!
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