第36話「良い土を見つけよう」
ついに始動したお茶栽培計画。
実際に茶樹を栽培するのは初めてであり、右も左もわからぬ素人同然の私ですが、この機を逃すと次は秋挿しの時期まで苗木育成をストップさせなくてはいけません。
そんなに待てるわきゃぁ断じて無い。ただでさえ茶樹から茶葉が採れるようになるのは3~4年程育たないといけないのです。手を付けるのが早いに越したことはありません。
現在、苗木ちゃん達は
むしろ、森の植物たちに生命力を配ってくれるありがたい存在。そんな世間樹の近くなら、万が一にも枯れるという事はないでしょう。
本当なら、コーヒー豆も栽培したいのですがね……この森には春夏秋冬がしっかりとあるため、コーヒーの栽培には向かないのです。霜はコーヒー豆の天敵なのですよ。
何か対策を練れれば、あるいは……まぁおいおい考えないといけませんね。
兎にも角煮も佃煮も、今の私が苗ちゃん達に出来る事は、住み心地の良いお家を見つける事です。
心和は最終的にはお茶農家を目指してたんじゃないかってくらいにネット漁って知識をため込んでいましたからね。ばっちり適した状況は把握していますとも!
あとは、土の専門家がいれば完璧なのです!
「なるほど! なので農業国家出身である私めを招集したのですね、管理者様!」
「ザッツライト! その通りですノーデさん!」
そう、ピット国は森の恵みを受け取りつつも、自給自足の常を貫く精神力に満ち溢れたバリバリの農業国家ですからね! 当然、騎士であるノーデさんもまた、畑仕事に付いたことだってあるのです!
本当はそんな事知らなかったですけどね! 先日土について悩んでたら、「どんな条件が良いのですか?」から始まり、ポンポン専門知識が飛び出してきてめっちゃ焦りましたよ。
土の状況を見るだけなら、ドライアド感覚で何とかなっちゃう私ですが、こと農園管理となるとこういう専門家がいてくれた方が助かるというものです。
それにしても、ノーデさん万能過ぎません? 執事活動から騎士としての護衛、更には農業にまで精通してるとか。日本で国民的に有名だった、アイドルやってる農家さんグループもびっくりの
「日本茶というものはよくわかりませんが、栽培方法が紅茶と類似しているというならば、私もお役に立てるかと存じます。ピットでは麦を用いた茶か、ヤテン茶しか扱っておりませんが、いつか紅茶にも手を出したいと我が王がおっしゃっておりましたので!」
まぁ、正確には紅茶も日本茶も樹自体はおんなじなんですけどね?
微妙に品種が違ったり、製造方法が違うのですよ。
「あぁ、それで勉強していたというわけですね?」
「というか、一時期栽培をお手伝いさせていただいた事があるのです。良い経験となりました!」
デノンさんのお役に立ちたいって理由でそこまでしたことあるんですかこの忠犬め!
天使かこの子! お持ち帰りしたいなもう!
「それで、茶樹の条件でございますがっ」
「ペロペロしたい」
「はい?」
「いえなんでも。続けてください?」
「あ、はい、条件なのですが、気候に関してはこのバウムの森で問題はないかと存じます。日の当たる場所を選べば大丈夫でしょう。しかし、問題は土の質です」
あぁ、なるほどですね。
前にも言ったと思いますが、バウムの森の木々はそれぞれの群生地が境界線として見れる程にはっきり分かれています。
野生化した果樹が広がる区画があれば、
つまり……
「茶樹に適した土の区画を、時間かけて見つけていく必要があるって訳ですね?」
「そうですね。私の知識と技術が役に立つのは、その後と言って良いでしょう。まずは、ココナ様が日々の管理者家業の中で調べた土の質で、適した場所を特定させるのが一番かと」
非常にクレバーじゃないですか。大変にグッドです。
なんかもう、抱きしめて頭ワシワシと撫でまわしたくなりますね。
なでなでは後で絶対敢行するとして、なるほど、まずは条件の合った土を探すことからですか。
そうなると、ネットで調べた茶樹栽培の好条件土壌は……。
1:排水性、通気性がよく保水性も兼ね備えていること。
2:根が生長、伸長できるような土壌の深さが最低60cm、理想的には1m以上あること。
3:土壌中の
この辺りがあげられますね。
とはいえ、今回苗のモデルにした大和茶は、多少の粘土質な土でもいけちゃうくらいタフなあんちくしょう。3番の条件に関しては、礫にさえ気を付けていけばよさそうです。あ、ちなみに礫っていうのは、小石とかその辺りの粒のことですね。
「そうなると……あそこなんていいんじゃないですか?」
「お、どこか気になるところでも?」
「えぇ、早速行ってみましょ~!」
まず前提となる、日が当たってる場所へ足を運んでみます。
といっても、そこは拠点となっている日本家屋からそう離れている距離ではありません。
場所としては世間樹の近くになるのですが……ゴンさん洞窟のほぼ真横です。この辺、ぽっかりと木々が無い空間があるんですよね。
理由は簡単。数か月前、外からやってきたマンティコアが暴れたからです。
私の事もぱっくんちょしてくれそうになりやがりましたからね。ゴンさんがいなかったら今頃どうなっていたか。
でも、今はそのおかげで日の入る空間が出来上がってますし、マンティコアの魂は輪廻に組み込まれているでしょうから良しとしましょう。今頃悪魔にでもなってるんですかねぇ。
ま、それはそれとして土壌調査です。
この辺一帯の土を調べてみますがぁ……ふむ。
「ん~、元々泉が近かったですから、少々粘土質かもしれませんねぇ。とはいえ、常に綺麗な水に入れ替わってたみたいですし、排水性、保湿性は申し分ありません」
「どれどれ……ふむ、栄養価は充分でしょう。土も硬くないので、掘り返せば根も下ろしやすくなるでしょうな」
「礫はどんな感じです?」
「目立つほど多くはないですね。小さな畑ならこの空間でも問題ないでしょう。大きくするならば、更に木々を伐採する必要がありますが」
ん~、樹にどいてもらうのも可哀想ですし、規模はこのくらいでもいいでしょう。
それに、土が大丈夫ってなら、距離が近いにこしたことはないですしね! ゴンさんも今はお家に住んでいるので、洞窟が農業用道具を置く倉庫になっても文句はないでしょう!
「よ~し! じゃあ場所はここで決定~!」
「かしこまりました! では、準備をして翌日から畑を開拓していきましょうっ」
うぅん、燃えてきましたね!
絶対良い畑にしてやるぞ~!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます