祝い事の準備

 新年直前の十二月末日の夜中から、ずっと雪は降り続いていた。

 日の出を少し過ぎてから、やっと雪は止んだが、大人の膝上ひざうえくらいの高さまで雪が積もっていた。それ故、一月一日の早朝から、イシヅミ町の人々は雪かきを懸命にこなしていたようだ。




 新年になって最初の日に、トーコとオズワルドは、太陽の南中前、王宮に行って、国王陛下やジョンに新年の挨拶あいさつをする予定を立てていた。


 しかし雪は止んでも、一日中曇りの天気のようで、流石にだいぶ雪は積もったままだった。凍った地面は危険であるし、歩道も歩きにくそうだったので、王宮を訪れるのは延期になった。



 一月二日以降も、イシヅミ町はくもりの日が続いた。雪はあまり溶けなかったようだ。

 一月三日には何とか歩道が歩きやすくなり、トーコとオズワルドは王宮に辿たどり着いた。多くの人々に新年の挨拶あいさつをし終えると、その日の夜にはヒノキ村に帰ることができた。

 晴れた日があったからか、馬車が道を通れるくらい、ヒノキ村の雪は多少溶けて減っていたようだった。




 それから、やっと一月五日には晴天になり、イシヅミ町の雪が一気に溶け始めた。

 その日から六日後、公にジュリアン王子とソフィア妃の婚姻こんいん披露ひろうする予定になっている。


 トーコとオズワルドは、一月十日の昼間に、イシヅミ町に着いた。

 雪が再び積もらないか心配して、心の余裕を持てるよう、ジュリアンたちの披露ひろうに参加するために、イシヅミ町で一泊することになった。

 トーコは元自部屋に、オズワルドもオスカーが用意してくれた、王宮の小さなゲストルームに泊まるようだ。



 その日は何度か晴れ間は見えたが、時々曇ってはパラパラと小雪が降っている時間もあった。夕方には雪は完全に止んで、空の雪雲はまばらになっていた。


 今月の上旬に積もった雪はほとんど無かったが、すっぽりヒトの足の甲が埋まるくらいまで積もっていた。

 それで、ジュリアンたちの披露ひろうに備えて、王宮正面の大庭に国民が安全に行き来できるようになるらしい。王宮の使用人たちは、夜中まで雪かきに追われていたようだった。



 そして一月十一日、その日は素晴らしい程の快晴だ。

 王宮内は早朝から非常に慌ただしい様子のようだ。親族の者だけでなく、使用人や侍女たちもあちこちで打ち合わせをしていたり、走り回ったりしている。


 ジュリアンたちの婚姻のお披露目があるのは、ちょうど太陽が南中する頃に予定されている。

 ジュリアンとソフィアの親族たちは、皆すでに朝には正装を着て、王宮内でゆったりと待機していた。



 できるだけ早く朝食を済ませたトーコは、後宮の部屋で、ゆっくりと着替えをしていた。

 着替えが終わった時、日の出からはしばらく経っていた。もうそろそろ、お披露目ひろめに出席する親族たちが、花婿と花嫁の待機室付近に集まり始める時間である。


 トーコは窓の外の雰囲気を見ると、ハッとした。その後、姿見で自分の全身、身だしなみをしっかり確認すると、後宮の部屋を出たのだった。




 トーコが花婿と花嫁の待機室の近くまで行くと、すでに多くの親族たちが集まっていた。イスに座ったり、立ったままだったりで、和やかに談笑しているようだ。


 トーコはゲストと目が合う度に挨拶あいさつをしている時、ジュリアンがトーコの方に近付いてきた。


「トーコちゃん、おっはよ〜」


 装飾品が多い花婿衣装を着たジュリアンに気が付くと、トーコは慌てて、できるだけ丁寧に挨拶あいさつをした。


「おはようございます、ジュリアン様。ご結婚、おめでとうございます!」


「今日は出席してくれて、ありがとー。……あっ、忘れそーだった! そーいえば、さっきね、ソフィアがトーコちゃんを呼んでいたよ。待機室で待っているから、行ってあげて〜」


「えっ……? あっ、分かりました!」


 ジュリアンの言葉を聞いて、トーコは小走りで花嫁の待機室へ向かった。

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