勅命の件……

 オズワルドがヒノキ村に戻れたのは、王宮を訪れた四日後だった。


 太陽が南中してから少し過ぎた時、オズワルドはヒノキ村にある馬車の停留所に着いた。

 ヒノキ村の集落を通り過ぎて、エヴァの診療所の前まで行くと、ちょうどトーコが診療所のドアから出てくるのが見えた。


「……よ」


 そう言って、オズワルドは軽く片手を上げると、トーコはオズワルドの方を見た。


「オズワルドさん、やっと帰って来れたんだね。本当にお疲れ様っ!」


「こんな時間に珍しいな……。昼食は、もしかして、これからか?」


 普段、今の時間に仕事があれば、トーコは家で昼食を食べているので、オズワルドは気になったのだ。


「それか、数日前の超キツイ日程で、体調を崩したのか?」


「それは、何とか大丈夫〜。心配してくれて、ありがとうね。

 ……あっ、リズちゃんが気遣ってくれて、王宮絡みで続いた用事のいやしに、ここ数日ね、エヴァ先生も混ざって、一緒にお昼食べていたんだ」


 用事云々よりも、ちょっとの間でもオズワルドに会えなかったことが、一番モヤモヤしてた原因だが――

 不器用で、どうしても恥ずかしさが抜けないトーコは、本心を伝えることはできなかった。


「そうか、安心した……。一緒に帰っていーか?」


 トーコが「うん」と返事をすると、二人は山岳警団の詰所の方向へ歩き始めた。


「……とっ。そーいえば、オスカー様から、何か頼まれていたみたいだったけど、何だったの?」


「ああ。収穫祭の期間に、国王陛下専任の護衛を依頼された」


「えっ!? スゴイじゃんっ!」


 トーコは感嘆したが、オズワルドの口調は相変わらず淡々としていた。しかも、なぜか彼は暗い顔になっていた。


「前職で、多少の経験があるってゆー理由らしいが、ソレよりも最近は人手不足が深刻らしい。

 ……あ〜、オスカー様から、アイザック様が、かなりの面倒臭がり屋だから、話し合いもせず、採用を独断で決めてしまうから、繰り返しめた、って聞いたしな……。適任者が、なかなか見つからなかった、とも言ってた」


 補足をすれば、アイザックはノリが軽過ぎる、……まあ正直に言えば、あまりヒトの見る目が無いのかもしれない、ということだ。


 オズワルドもトーコも、上記のような事情を知っている。トーコは苦笑いをした。


「はは……。アイザック様らしいね」


「そうだな。オスカー様も、いろいろと苦労していらっしゃる」




 そうして話しながら、歩き続けていくと、あっと言う間にトーコの家の前に着いた。


 すると、オズワルドは腰を曲げて、正面からトーコを強く抱き締めた。彼女の首筋に片手で触れた後、自分の顔を彼女の片頬かたほほにやさしく当てた。


「事前の打ち合わせもあるから、しばらく顔見れねーかもしれない。収穫祭の時、王宮で見たら絶対声をかけるから、な……」


 そう言った後、ゆっくりトーコから離れると、オズワルドは山岳警団の詰所に帰っていった。

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