束の間のひと時

 それから数日間、イシヅミ町に滞在していたオズワルドは、しばらくヒノキ村には帰れなかった。

 まあ、手紙で山岳警団長のアダムには伝わっているが、オズワルドは本来の仕事も休まざる得なかったのだった……。



 婚約者同士になってから、できるだけ毎日、オズワルドはトーコの家に顔を出すようにはしていた。


 それ故、束の間だが、オズワルドの姿を見かけられなくて、トーコは寂しい気持ちになっていた。何となく元気も無いようだ……。

 また、仕事の合間に、家の出入りをする度に、山岳警団の詰所を見つめては深く溜息をすることを、繰り返しているのだった。




 一方で、トーコがオズワルドと婚約した話を、エドガーから聞いた友人のリズは、ひっそりとトーコのことを気にかけていた。


 それで、リズはエヴァに許可をもらって、エヴァの家で、トーコも混ざって一緒に昼食をとることになったのだ。


「リズちゃん、婚約の報告が遅くなっちゃってゴメンッ! あと、あれこれ心配してくれて、ありがとうね」


「うん……、まあ私もさ、毎日毎日、子育てでもりっきりになるの、気が滅入りそーになってたしね〜。こうして話し相手が居ると、気が晴れるかも」


 そう言いながら、リズは赤子にミルクを飲ませながら、器用にパンをちぎって食べていた。

 そして、トーコは友人のありがたさを、しみじみと感じたのだった。



「さあさあ、イカと貝のアヒージョができたよ。冷めないうちに食べて」


 作った料理をエヴァが人数分の皿に取り分けると、ニンニクの利いたいい匂いが、部屋中に広がった。


 トーコとリズは、フォークで貝を口に運んだり、ちぎったパンを色々な味をふくんだオイルにけて食べたりして、楽しい時間を過ごしていた。


「すっごく美味しいですっ!」


「そーだね、また食べたいかも……」


「二人とも、ありがとう。ホント張り合いがあるよ〜」


 エヴァはある程度使った物を洗うと、ゆっくりと席に着いた。


「……トーコ、本当に婚約おめでとうね。エドガーは極度の心配性だから、きっと血相を変えて、即ジョン閣下かっかに伝えに行ったのだろうね」


「血相を変えてたかは分かりませんが、すっごく動揺してましたね……。まあ……、私も浮いた噂が一つも無かったですしね、アハハ……」


「ホント良かったね、おめでとう。……でもさ、オズワルドさん相当人気と言うか、ヒノキ村の以外の女の子にも囲まれているくらいだから、『トーコ、なかなかやるねっ!』と思ったよ〜」


 精神年齢が高く、普段は冷静なリズだったが、今は少しだけ興奮しているようだ。

 その後、彼女は意外なことを言った。


「オズワルドさん、。うちの旦那なんか、ヒョロヒョロすぎて比べ物にはならないわー、ははっ!」


「あはは、リズは正直だなっ」


「ちょっ……ちょっと、先生まで笑って……。ウィリアム君、官吏かんりを目指して、単身赴任までして、遠くのイシヅミ町で頑張がんばっているの、十分スゴイって!」


 ……と、頭脳明晰ずのうめいせきなリズの夫を讃たトーコだったが――

 本当は、癖で全裸のまま寝ていたオズワルドを思い出して、気絶しそうだったらしい……。

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