銀髪の青年(2)

 ヒノキ村内の山岳警団と、トーコの家は同じ方向にある。ヒノキ村からは、山岳警団の方が少し遠い。



 トーコは、山岳警団の詰所に向かって歩いている途中に、深い溜息をついた。


(さっき、リズちゃんに『ボォーとしてる』って言われたけど、仕事のことよりも、オズワルドさんのことが大きいんだよな〜。

 髪とを、すっごく褒めされたからだと思うけど、なんか意識しちゃうな……。あの後も、何度か温泉で会ったけど、目を合わせられなかったし……)


 再び溜息をついたが、その後もトーコは、何度も繰り返し溜息が止まらなかったようだ。




 トーコの家の横を通り過ぎ、突き当たりの開けた敷地内にある、山岳警団の詰所が見えてきた。

 詰所前の広場に入ろうとした時、トーコはすぐに木の後ろに隠れた。広場で数名の若い衆が、まき割りやまきの運搬をしているのに、気が付いたからだ。

 

 非常に慎重な性格が故、トーコは、団員に声をかけるべき時間を熟考している。


 しかも、広場の中央付近の、よく目立つ位置で、オズワルドがまき割り作業をしている。

 その上、オズワルドの近くで、トーコよりも少し若そうな二人の娘が、黄色い声を出しているようだ。


(うう……。何だか行きにくいっ!)


 心の中でつぶやくと、再び溜息をついて、トーコは広場の様子を見ていた。


 しばらくすると、作業を終えた団員たちは、ぽつぽつと詰所の中に入っていった。

 広場に居た娘たちが、ヒノキ村の方向に歩き始めたのを確認すると、トーコは小走りで木々の間を通り抜け、詰所の裏側に回った。

 

 深呼吸を数回した後、恐る恐る広場の方に行くと、おのを持ったまま、ひと休みしていたオズワルドと目が合った。


「あー……、団長に用か?」


「あっ、はい。エヴァ先生からの預かり物です」


「今は不在だ。部屋に置いてくる。……ちょっと待っていろ」


 マジョラムが入ったかごごと受け取ると、オズワルドは詰所から早足で戻ってきた。


「……やる」


 オズワルドは、透き通った薄い茶色の何かが入ったガラスびんを、トーコに渡した。


「もしかして、ハチミツですか? どっ、どうして、こんな高級な物を、私に……?」


「知り合いからもらったんだが、団員の料理用には少なくてな……。良かったら、使ってくれ」


「あ、ありがとうございますっ」


(てかっ、余計に意識しちゃうじゃんっ!)


 オズワルドにお礼を言った後、トーコは心の奥で、そう一人で突っ込みを入れたのだった。

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