銀髪の青年(1)

 ヒノキ村の中に、不特定多数の人々が訪れる場所がある。

 集落の一角に、非常に腕のいい薬師が住んでいる。イシヅミ町からの客も居るらしい。


 薬師の名前はエヴァ、琥珀こはく色のが特徴的な四十代の女性だ。

 彼女は王家の者も名前を知っている程、とても有名である。




 季節は、夏の最盛期。八月の半ば頃のことである。


 ある日の昼間、トーコはエヴァの家に、お茶用の乾燥したローズヒップを買いに来た。

 すると、赤子を連れた若い娘が、エヴァの家に入ってきた。


「こんにちは。……ローリエを買いに来ました」


「ありがとね。すぐに包んで、用意するよ」


 エヴァに声をかけると、その娘はトーコの存在に気が付いた。


「久しぶりだね、トーコ。なんかボォーとしてるみたいだけど、大丈夫? ……まあ、転職すると、いろいろ大変だよね」


 彼女は、トーコの友人らしい。エヴァよりも背が高く、トーコよりも細身のようだ。


「うん。でも、少しずつは慣れてきたかな」


「覚えることばかりの時は、しんどいと思うけど、突っ走り過ぎないよーにしないと。ほどほどに頑張って!」


「うん。ありがとう、リズちゃん。……主婦業と子育ては、どんな感じなの?」


「働きに出てる時とは違う、別の忙しさがあるね。まあ、何とか乗り切ってる……かなぁ」


「そっか。リズちゃん体力ある方だけど、無理だけはしないでねっ」


 リズは、前竜使いルークのめいだ。

 ローズヒップとローリエを、トーコとリズにそれぞれに渡すと、エヴァはトーコの方を見た。


「そういえば、アダムからマジョラムを頼まれてたな……。トーコ、悪いんだけど、また山岳警団の詰所に届けてくれないかな?」


「分かりました」


 大量の乾燥させたマジョラムが入った、木のかごを受け取ると、トーコはエヴァの家を出た。


「エヴァ先生、ありがとうございました。リズちゃんも、またね〜」

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