竜使いの娘(1)

 それから数ヶ月後、娘は竜の背に乗って空を飛ぶのに、少しずつ慣れてきた。



 たった今、飛んでいる場所は、険しいトゲトゲ山脈の真上である。

 六月の、ある初夏の日。もうすぐ太陽が南中になる時間だ。


 娘は漆黒ので、同じ色の直毛を一つに束ねて、丈の短い真っ赤なチュニカを着ている。しっかりと綱をつかみつつ、広大な森の中を注意深く見ているようだ。


 その時、突然、黒い竜が低い声で呟いた。


「北西の辺りから、禍々まがまがしい気配がする」


「エドガー、分かったよ」


 すると、名前を呼ばれた竜は飛ぶスピードを上げ、真っ直ぐにヒノキ村の方角に向かったのだ。


「綱を離すな、トーコッ!」


「うんっ!」




 王国では、昔から野生動物の密猟が後を絶たない。

 近年は、密猟者たちの悪知恵が特に目立っている。緑や茶色等の服を着た上に、木々や土に同化するようまぎれて、横暴を繰り返しているのだ。

 ……全く、怒り心頭な話である。




 だが、不思議な力を持つ竜には、密猟者は決して敵わない。

 ヒトの何千倍の視力と、未来が薄っすらと視える『予知能力』があるため、遥か遠くでの悪行にも、すぐに気付くことができるのだ。


 ヒノキ村寄りの山々の真上に着くと、木々が生い茂る間から、少し動いているようだ。

 そのを確認すると、トーコはピッピーと、首に掛けてある角笛を、思いっきり二回鳴らした。

 

 一方で、竜は一番近くの山岳警団の詰所の上まで行くと、低空飛行しつつ、わずかの間だけ、空中に浮いていた。



 詰所から警団員たちが、次々と急いで出てきた。

 その姿を確認して、駆け足で山に向かうと当時に、低空飛行したまま、エドガーたちも後について行く。


 遠くからは、一斉に無数の鹿が散らばって逃げていくのが見えるようだ。


「自然の摂理せつりに背く、大悪党どもめっ! 竜のを見くびるでないぞっ!」


 興奮したエドガーは勢いよくうなると、逃げていく鹿の群れの後方の地点に、ゆっくりと近付いていった。



 

 その後、山岳警団が密猟者たちを捕らえるのを見届けると、トーコを乗せたエドガーは、ヒノキ村にある家に帰っていくのだった。

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