第36話 DIY藤棚
四人で桜の木の下に座って、まずはどうやって藤棚を作るかの作戦会議をする。
ちなみに、花がすっかり散ったしだれ桜は、今は緑つややかな葉桜になっている。桜娘はピンク色の髪をお団子にして、地味な灰色の着物をまとって、興味津々といった様子で、幹の陰から俺たちの様子を眺めていた。
『お花はないのにお花見?』
桜娘がワクワクしたように聞いてくるから、俺は「お仕事だよ」とあんまり期待させないように伝えておく。
「神主さん。藤棚なんて、どうやって作るの?」
永井くんの当然の疑問。ちなみに俺も、藤棚を作るのは初めてだ。
「それがな、意外と簡単に作れそうなんだよ」
俺は自信満々で胸をはる。なにしろ、ムラ爺と打ち合わせ済みだ。
俺は地面に図を描いて説明する。
「まず、柱の下側の『基礎』のところは、ホームセンターで買ってきた穴あきブロックを使う。ちなみに、これは昨日買って、麓の俺の家に置いてあるから、後でここまであげるのは永井くんと俺の仕事な」
「いい特訓になりそうですね」
聞きながら、拳を握って気合を入れる永井くん。
「その間に、ムラ爺と結衣ちゃんには、穴を掘って待っててほしい」
藤の木の側には、昨日の間に地面の距離を測って、穴の位置に印をつけてあった。小さめの藤棚でいいだろうということで、四隅に柱を立てる計画だ。
「柱は、社殿を修理したときに余った木材が床下にあったから、それを使う。基礎と柱ができたら、その後は裏の竹林で竹を切ってきて、格子状にして上に載せて、完成だ!」
「ちょっと大変そうだけど、おもしろそうね!」
結衣ちゃんが手を合わせて目をキラキラさせている。
監修のムラ爺は、腕組みをして、うむ、とうなずいている。
ということで、俺たちは作業に取りかかった。
スコップと鍬を使って、ムラ爺と結衣ちゃんが穴を掘っている間に、俺と永井くんは参道の階段をたったかと駆け下りて、麓からブロックを運ぶ。
「うおっ、けっこう重いっすね」
ブロックを持ちあげて、永井くんが驚いたように声をあげる。
「15キロはあった気がする。一個ずつ、二往復しよう」
「特訓ですね!」
さすが若者の永井くんは、軽快な足取りで階段をのぼっていく。俺はその後を、えっこらえっこら、休み休みついていった。
「ヤバい、腰にくるな、これ……」
スタートからへばる俺。それでも、なんとか二往復して運び終わる。
「穴掘りも大変ね」
基礎のブロックを埋める穴を掘っていた結衣ちゃんも、疲れたように休憩している。ムラ爺は、爺さんとは思えない体力で、黙々とスコップと鍬をふるっている。
ちなみに、なぜがお犬様も参戦して、楽しそうに穴を掘っていた。
『何この人たち』
木の枝に腰かけた椿と、その横にくっついた藤が、目をぱちくりさせて、俺たちの作業を見学していた。
「藤棚を作ってるんだよ」
藤が自由に伸びられるようにな、と説明すると、藤が『あら!』と嬉しそうに声をあげる。
『私も解放されるのね』
椿もほっとした様子を見せる。
基礎のブロックを地面に埋め終わると、穴に木材を立てて、隙間には水で練ったモルタルを流し込む。この辺は、ムラ爺が詳しいらしく、サクサクとやってくれる。
その辺りで昼飯時になったので、あらかじめ買ってきていたおにぎりやらサンドイッチやらを、どさりと袋に入れて出す。それと、ペットボトルのお茶にコーラ。
昼休憩が終わると、俺たちはぞろぞろと、裏の竹林に向かった。
「ここで、細めの竹を伐って、運ぶんだ」
二手に分かれて、多少の危険をともなう竹を切る作業は俺とムラ爺が担当し、高校生たちには、竹の運び役をお願いする。
俺が、適当に竹を選んで切ろうとすると、背後に気配。
振り返ると、背が高くてすらりとした男が立っていた。
『あんた、今度は何してるんや』
京都出身だと言う、関西弁の竹男。先日の山の神探しでは世話になったな。
「あ、ちょっと竹を何本か、拝借したく……」
俺はすばやく懐から貢物、もとい酒まんじゅうをとりだすと、竹男に渡した。
竹男は『けったいなこと、しとるな』と言いつつも、貢物を受け取る。
『何に使うんや?』
「藤のための、棚をつくりたくてですね」
『ふん、それなら、その竹は止めた方がいいぞ』
「え?」
俺が手をかけていた竹を、竹男があごをしゃくって、そう忠告した。
『そいつは、まだ若いから弱い。伐るなら、こういう古いやつにしておけ』
つやつやとした緑色の竹ではなく、灰色の斑が浮いた、くすんだ竹を指し示す。
「なるほど、アドバイス助かる」
俺は竹男に言われるままに、ノコギリで竹を切っていった。
「おお、神主さん、いい竹を選びますね」
俺の切り倒した竹を見て、ムラ爺が感心したように言うので、「たまたまですよ」とごまかした。
竹男に教えてもらったとは、ちょっと言いにくいからな。
竹を切り終わると、みんなで協力して、針金で適当な格子状に組み上げていく。
夕方には、作業はほぼすべて終わった。
「よし、後は明日モルタルが固まったら、格子を柱の上にのせて終わりだ!」
翌日の午後、もう一回集まってもらって、みんなで柱の上に格子を載せ、柱の間に斜めの棒を渡して補強し、DIY藤棚は完成した。
「みんな、ありがとうな!」
俺は手伝ってくれた三人に礼を言って、封筒に入れた心ばかりの謝礼を渡すと、高校生ふたりは素直に「やった!」と喜び、ムラ爺は「ボランティアで構わんよ。とっておきなさい」とやんわり断った。
「さ、お前も椿から離れてくれな」
俺は藤のつるを椿から引き離して、藤棚の上に誘導する。
藤の重みでしなっていた椿が、今は十分な日の光を浴びて、藤ものびのびと自由なスペースを得て、それぞれご満悦そうだった。
『ああ、やっとお日様を浴びられるわ』
重くて肩が凝ったわ、と椿が木の枝に腰かけて足をぶらぶらさせ、空を見上げて目を細めている。
藤は藤棚の上で手足を伸ばして寝転がっている。
『なかなか、快適ね』
そんな彼らの様子を見て、俺もちょっと嬉しくなった。
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