11 男には、二面性があります
しかしそろそろ二人とも、契約をどうするのか決めてくれませんかね。
社長がたぶんもっと本気の強気でいけば、高田さんはその契約諦めてくれそうな雰囲気なんですけど。
そんなことを思っていたら、今更の小宮さんが帰ってきた。
応接室に向かって軽く挨拶をしたあと私の隣の席に座った小宮さんが、目線で高田さんを追いながら小声で聞いてくる。
「あれか?」
(……メール読んでたんなら返事ください)
心配してるのになぜメールは無視なのかと疑問ながらも、社長に喋っているのを気づかれないよう小宮さんと視線を合わさず机に目線を置き、仕事をしてる振りしながら説明をする。
「はい。今、二人で契約継続か破棄かって話してます」
「なんで破棄の話になってんだよ。珍しいな。で、今回は何を貢いだんだ?」
「電話機、七年リース、計100万越えです」
「それ。まさかこの事務所に置く電話機じゃ」
「そのまさか、です」
「……いらないよな」
「はい。考えるまでもなくいらないですよね」
「そんな金あるなら、50万づつボーナス欲しいな」
「欲しいです」
「俺、応接室に顔出しに行こうか?」
「契約破棄方面なら応援しますが」
「いま、この状況で、それ以外の用事が何かあるか?」
「じゃあ社長の手を取って『俺とその契約書、どっちが大事なんだい?』と宝塚ばりに甘くささやいてきてみては」
「いや、それはちょっと…」
*******
そして外見の爽やかさを生かしつつ、実は悪魔な気分の小宮さんが行動しようとしたとき、急に応接室の方から高田さんの声が聞こえてきた。
「契約をこのままにしてくれるなら、とってもありがたいです」
そりゃそうだろ…と心でツッコミを入れたが、その言葉からちょっと後に今度はこう聞こえてきた。
「はい。別に仕事に関係ない困りごとでも助けますし、暇だからちょっとお茶でも、ってのも付き合います。本当にいつでもお伺いしますから」
話しの流れは不明だが、
高田さんが社長が自分の事を気に入っているのを知っており、更に契約書を返してほしくて必死なのだって事は分かった。
そうなるとかなり気になってきて、どんな話をしているのかと応接室の二人を見たら、またまた流れはよく分からないんだけど、高田さんがかなり激甘の笑顔で何かを社長に言っている姿が見えた。
その言葉のせいか激甘の笑顔のせいかは知らないが、まるでキューピットの矢で射貫かれたような顔をして社長が放心状態になっている。
そんな状態の社長に高田さんは何かを語り、にっこりと手を差し出す。
すると「破棄して!」とわめいてずっと社長が抱えていたはずの、契約書一式が挟まれているクリアファイルが、高田さんの手へと渡された。
そしてそれを見て、横に座っていた小宮さんは不快そうに舌打ちをしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます