09 社長、あと7年は生きて下さい


 

「小宮さん、早く帰ってきて」


 そんな私の願いもむなしく小一時間ほどすると、社長が自分の机へと向かい、そして何かを取り出そうとしている。


 出来るだけ無害に見える笑顔を貼り付けて、ソーっと社長のそばへと近づいていく。そして「どうされたんですか?」と尋ねてみた。



 社長から返された答えをまとめてみると、


 あの営業くんが持ってきた書類にハンコを押すが

 それは、認印ではなく会社印だと言う。


 思わず「会社印ですか?!」と聞き返すと、「そうあはは。もう、大丈夫よ!」と軽い返事が。




 おいおい。



 普段ならこの時点で


「何考えてるんですか。この貢ぎ女め」

「会社印だぞ、まずは良く考えろバーカ」


 的な事をオブラートに包みつつ、しつこく責めることぐらい朝飯前なのですが、今は社長が気に入ってる男性の前である。


 イケメンを前にしている時に下手なことをいうと「恥をかかされた」と、白目をむいてキレだすだろう。


 それに何を言ってもこのウットリ状態だと、耳を素通りして残骸も残らないことは経験済みである。



 こういう時、イケメンにはイケメン。

 小宮さんが最適なのだが、彼は今いない。


 とりあえず小宮さんにメールを送ってみたが、返事はまだ無い。





 *****





 結局私はなんにもできず、そそくさと事務所を去っていった営業くん、いや高田さんはしっかりと目的の契約をつかみ取っていた。



 そして彼が帰った後、何を購入したのか社長を尋問しつつ書類を見ていたのだが、契約書なんぞ滅多に見ないからいまいち分からん。


 ただこの「リース契約書」が、貧乏会社にとってはお安く済むものではない事は知っている。しかもパンフレットに丸がされており、書類にも書かれているそのOA機器はよりにもよって


「電話機」だ。



 社長。何が差し引きすると「お得」なんだよ。


 立派な電話機が、すでに事務所には三台もあるじゃないか。

 しかもオフィス仕様のいい高いやつだ。




 いまいちまだ状況を把握していない社長のために、とりあえずリースだと最終的にどれくらいの金額になるのかを計算することにした。


 高田さんが書いたという説明書きには、「七年リース」「毎月○○円」とある。


 ポンポンと素直に計算機に数字を打ち込んでいくと、見事に「100万越え」の金額が液晶に現れた。




 これ詐欺じゃないですよね。泣いていいですか?


 しかも七年って。


 社長そこまで生きてるんでしょうか? 

 ま、生きてるだろうけど。




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