08 社長がウットリしています
応接室と事務所を区切っているパーテーションは、ソファーに座ると顔だけが出るくらいの高さのものである。
だからあの営業くんが、手元で何を書いているかまでは分からない。
しかし見ていると、とっても良い笑顔で社長に何かを薦めているのは確実だ。
また向かいに座っている社長も楽しそうに
―――というか、社長ウットリしてないか?
テンションも超高めだ。
それにいつもと違い、地に足が着いていないフワフワ状態だよ?
ヤバイよ、小宮さん。
社長が何かやらかしそうな予感がするよ。
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それは、今から半年前のことだった。
『新しい人が担当につくことになったので、ご挨拶がてら投資についての話もしたい』
いつも利用している銀行からそんな電話があった。
社長に尋ねOKを貰った私は日時を決め、そしてそのご挨拶当日に、
「いつもお世話になっています。新担当の前川です」
そう言って現れた男性は―――とっても男前だった。
イケメン大好きな社長がはしゃがない訳がなく、キャッキャッと前川さんとのおしゃべりを楽しみ、彼が帰る頃には外貨投資をすることを約束していた。
いやね。別に構いませんよ自分の金ならね。
だけど毎月赤字ギリギリの売り上げで「従業員の給料も上げられないの」とか言ってるクセに、なぜそのなけなしの会社の運転資金を、100万単位でリスクが高い投資にぶっこもうとするのか……
さすがにこれは、お抱えの税理士さんに、早々にバレてしまい怒られたので
(小宮さんがチクったともいう)
渋々だが自分の貯金から自分名義で外貨投資をしたらしい。
そうなんです。
ウチの社長様は、気に入った男性が目の前にいると
つい、かつ無意識に、いつのまにか、気づいたら、あらよっと、
『うっかり大金を貢いでしまっている』
というクセを持つ女性なのですよ。
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半年前のしばらく続いた ”愛しの前川病” を思い出した私は、応接室にいる営業くんの顔を改めて確認してみた。
じっくり見てみるとそこそこ端正な顔立ちで、笑いながら喋る表情は女性好きするものかも。
前川さんや小宮さんのような歩いてるだけでも視線を浴びる華やかさが無いだけで、クラスで二番人気的なタイプかもしれない。
気づかんかった……。というか、そんなんあの短時間では気づかんよ。
さすが、社長のイケメンレーダーはするどい。
しかしとりあえず小宮さん、早く帰ってきて……
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