06 こんなんで落ちるとは思ってませんでした


 

 僕の最後の言葉の後、グルルル的な声を出して黙り込んでしまった社長。


 急に静かになった応接室が気になるのか、事務員が再びこちらを見ているようだ。そんな事務員に気づき、社員であろう男性もこちらに視線を向けた。



 それからしばらくして、社長が疲れ切った顔をして言った。


「わかったわ。契約は継続しましょう」


(継続しましょうって言ったか? マジか!)


 心の中では「ありえん!!」とかなり驚きながらも、顔はにっこりと微笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。では契約書を会社へ提出するので、こちらへ頂けますか」


 伝えながら手をのばしてみると、社長は力なくクリアファイルを僕に手渡したそのあと、ふと自分に向けられている冷たい視線を感じたようだ。


 そう、事務員と男性社員の視線である。




 これ以上ここにいると再び


「やっぱり嫌だ」


 とか言われかねないので、社長に感謝の言葉を伝えながらすぐに立ち上がる。


「ありがとうございます、社長。えっと、今日は帰りますが、また納品の日が決まったら電話ではなく直接お伝えに来ますので」


「……お願いします」


 そしてドアの前まで歩いてから、事務員と男性の方を向き頭を下げる。




 事務所を出てから僕は会社へとまっすぐ帰り、上司に契約が出来た事を伝え書類を渡した。


 なんかすごい達成感が。あ、疲労感もすごい出て来た。




 しかし僕はまだ気づいていなかった。


 あのYUKINO商会の社長の中身が、猪突猛進型の「乙女」だということを。



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