03 社長と事務員さんの攻防戦


 

「社長。いったい何の契約をしたんですか?」

「え、差し引きしたらお得だっていうやつみたい」


「なんですかそれ。で、何を買ったんですか?」

「えっと。このパンフに丸がついてるやつ?」


「やつ? ってなんですか。やつって。さっきから適当すぎです。―――まさか、よく分からないままハンコ押したりしてませんよね」


「あ、当たり前じゃない!!」



「顔がとっても格好良かった営業くん、だったから、ウットリして―――気が付いたらついハンコ押してた、とかじゃないですよね」


「た、確かに男前だったけど、そんなことで契約しないわよ!!」

「じゃ、説明してください。ほら早く」


「えーっと。あ、ほら。紙に書いて説明してくれたのがあるわ」

「へー。それ見せて下さい。ついでに契約書も」

「いいわよ。はい」



「……なんでリース契約書があるんでしょうか」

「………」


「そして、なんで、すでに、会社にある物をリースしようとしてるんでしょうか」

「………」



「……いいですもう。初めからゆっくり説明してください」






 *******






 最近不調だった僕が、やっと高額な契約が取れた。

 もちろん気分が良くて浮かれている。


 もう早く会社に帰って上司にこの契約書一式を渡し、もっと気分良くなりたかった。



 そんな浮かれ状態のとき会社の携帯が鳴ったので、何も考えずホイっと通話ボタンを押し調子よく電話に出る。


「はい高田です」

「YUKINO商会です」



 さっき契約した会社の社長からだ。



「あ、先ほどはありがとうございました。どうかされましたか」


「あの、まだ近くにいるかしら?」

「はい。今はまだ駅近くにいますが」


「そうなの良かった。用があるから戻って来てくれないかしら」


「あ、はい、大丈夫ですよ。今から伺います」

「よろしく。じゃあね」




 この時はまだ知らなかった。


 社長のおぼつかない説明を聞きつつ、僕が書いた説明書きと契約書をみて、状況をきっちり把握した事務員が


「今ならまだ間に合うかもしれない。ちゃっちゃっと電話して、騙してでも契約書を回収せんかい!!」


 そう社長に指示、いや命令していたなんて。




 それに馬鹿みたいに簡単に契約をしたYUKINO商会の社長をすっかり舐めくさっていた僕は、呼び戻された理由を深く考えもせず


「なんの用かな~」


 のんきに構えて、YUKINO商会に戻ってしまったのだ。



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