02 ラッキーな展開



 応接室で社長と二人になったあとは


  えっ、結構高額な商品ですよ。

  説明ちゃんと聞いてました?


  まだパンフレットを渡してから1時間しかたってませんよ?

  いいんですか?


 てな感じで、トントン拍子に契約が決まり、契約書の記入が始まった。



 離れた席にいる事務員は時折こちらを見ていたが、微妙な距離のため状況が分かりにくいようで、社長は一体何をしているのか…と心配そうにしている。


 そして契約書の記入が全部終わり、後は会社印を押せば契約完了となった為、社長は自分の席へと印鑑を取りに行った。



 その時、事務員がスーッと社長へと近づき、子供に対するかのような柔らかい笑顔を浮かべながら尋ねた。


「社長。どうされたんですか?」


「書類にハンコがいるから取りに来たの」

「あぁ認印ですか?」

「会社印よ」


「会社印ですか?!」

「そうよ。あはは、もう、大丈夫よ!」

「あの……変な書類とか、ではないですよね?」


 二人の会話は小声だが、距離が近いためマルっと全てが僕に聞こえている。



 ま、そりゃそうだ。


 飛び込みの営業が応接室に入れてもらえるだけでも珍しいのに、その一時間後社長が会社印を持ち出そうとしているのだ。


 それを見たら心配するのは当然だし、僕でもこの状況なら思わず聞いてしまうと思う。


「大丈夫なのか?」 と。





 *******





『もしかしたら、契約が取れなくなるのでは』



 そんな僕の心配は杞憂に終わり、


「ちょっと待て」といった顔の事務員を、笑顔で睨み追い払って応接室に戻ってきた社長は、僕が指さした場所に、ポンポンと会社印を押してくれた。



「ありがとうございます。では納品の期日が決まりましたら、またご連絡します」

「そうねよろしく!」


 帰り際、訪問時に事務員が対応してくれた場所でこんな会話をすると、事務員が目を見開いて驚いている。


「では失礼します」


 社長にお辞儀をしたあと、驚き顔の事務員にも目で挨拶をしてからそそくさと僕は場を立ち去った。





 正直24歳から三年間、今の会社で営業として働いているが、こんなに簡単にかつスピーディーに契約が取れた事なんて一度もない。


 ただ今回のこのラッキーな出来事はたぶん


 ”僕の顔”


 が関わってるんだろうな、とは思っている。



 いや、社長のあの態度を見た限り、絶対にそうだと断言できる……



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