第4話 迷宮・前編
なるべく銃は撃ちたくない、というヒースの希望により、二人は罠を避けるようにして迷宮を進んでいた。ナビゲートする木内としても異論はなかったし、何より拳銃を所持している男を相手にして無闇に逆らうのは避けたかった。
(まあ、オッサンもいきなり撃ちァしねえだろうけどな)
横目でヒースをうかがいながら、木内は胸中で呟いた。
「信じる気持ちが伝われば応えてくれるわ~」、なんてお花畑なことを考えているわけではないが、リスクが高すぎるのだ。
事前説明を真に受けるとして、発砲すればその音を聞きつけて人喰い怪物が襲ってくることになる。首尾よく木内を射殺できたところで、その死体を怪物の足止めに利用できなければ意味がない。最悪の場合は、怪物が木内に喰い付く前にヒースと鉢合わせしてしまう可能性だってある。
それに、2発しかないと言っている銃弾を節約したいというのは、本音であっても何らおかしくはない。
もし撃ってくるとしたら、怪物の位置が判明してからだろう。
「オッサン、次の十字路を左」
(さてどうする……早めに弾ァ使いきらせるか?)
ルートの指示と平行して、木内は思案する。
銃弾が底をつけば、ヒースを恐れる理由は半減する。しかし、唯一の攻撃アイテムがなくなれば、この先ピンチに陥った時に木内まで困ることにはならないか。そうでなくとも、ヒースが「弾切れになるくらいなら」と銃口を向ける恐れだってある。
(できるなら、誘導して罠に嵌めたいとこだな。銃も奪えればサイコーだが……オッサンも相当警戒してるっぽいし、そうそう上手くはいかねえだろうなぁ)
云々と頭を捻るが、これぞという勝ち筋は浮かんで来ない。どうしたところで二人のパワーバランスは、武器を持っている側に偏るのだ。
「どうすっかなぁ……」
「何かあったか?」
「あー……。……いや、この先がさ。どの道を選んでも罠に塞がれそうなんだな? だから困ったなぁ、って」
うっかり漏らした呟きを聞き咎められて、慌てて誤魔化す木内に、ヒースは疑わしげに眉をひそめる。
「本当だろうな?」
「も、もちろんだって。弾を無駄遣いしたくねえってのはオレも同じなんだ。例のバケモンが出てきたら、そのピストルだけが頼りなんだからよ」
「フンッ。だといいがな」
(おっかねえ……。信じてねえのはお互い様ってことか)
木内は冷や汗をぬぐって地図に目を落とし、不意に気付いた。
グ……ルルル…………
地獄から響くような、低音の唸り声。そして何か重くて大きな物を引きずる音。聞こえてくるのは数マス前方の十字路の、おそらく右手からだ。
「……な、なあオッサン」
「シッ! 黙れ」
声を上擦らせる木内をヒースは素早く制して、壁に張り付くと曲がり角から顔だけ出して向こう側を覗き見た。
「…………」
「どうだ?」
「……まったく、モンスターなんて出鱈目だと信じたかったんだがな」
苦りきった彼の表情から、木内は悟った。いよいよゲームは正念場を迎えようとしているのだ。
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