第3話 銃と地図
ヒースが開けた小箱に入っていたのは、一丁のリボルバーだった。添えられたメモを見ると、『バトるもよし、罠を壊すもよし、貧弱な女子供老人でもお手軽に高火力を叩きだせる文明の利器! うるさいのと弾数制限があるのがタマにキズ』とのこと。
「うげっ! 拳銃じゃん」
こちらの手元に気付いて、木内が目を剥いた。
「それ、本物なのかよ?」
「たぶんな。だが、弾は最初に装填してある分しかないようだ。これでは試し撃ちもできんし、ぶっつけ本番で確かめるしかないな」
「何発入ってんの?」
「ふむ……」
問われて回転式シリンダーを検めると、六発分ある弾倉の半分にだけ弾が込められていた。ヒースはそれを数えて、ほんのわずかだけ逡巡してから、答えた。
「2発だ」
「マジで!? そんだけしか入ってねえの!? 銃弾って迷路の中で拾えたりしねえかな?」
「できればいいんだがな。それで? お前のそれは何だ?」
シリンダーを戻して、ヒースは木内が箱から取り出した物を訪ねた。スマホか何か、電子端末のようだ。
「あー、地図だな。迷路の全体図と、現在地がわかる。あと、怪物とは別に罠が仕掛けてるって言ってたろ。ぞれも見れるようになってる」
「銃の弾を拾えるかどうかは、わからないのか?」
「少なくとも、地図上には出てこねえな」
一通り与えられた物品の確認を終えると、自然と視線は鉄扉へと向く。
歩き出そうという気分にはほど遠かったが、いつまでもこんな部屋にいるわけにはいかない。覚悟を決めて、ドアノブに手を掛けると、鉄扉は音もなく滑らかに開いた。
ヒースが銃を構えて部屋の外を覗くと、廊下がまっすぐに伸びている。怪物の動画を撮っていた場所とよく似ている。窓ひとつない薄暗い廊下で、切れかけの蛍光灯が明滅しているのが不安を誘った。
10メートルほどの一本道を進んだところで左右に道が分かれており、丁字路の先がどうなっているかは、ここから見ることはできない。
「地図によると、右に曲がって1マス進んだとこに罠があるっぽいな」
と、地図を片手に木内。
マス、とは何のことかと思ったら、廊下の床に敷かれているパネルが等間隔で色を変えている。どうやらこれが、すごろくのマス目のように見たてられているらしい。
「まずは左に行く感じ?」
「そうだな。銃で罠を壊せるらしいが、いきなり弾を消費していいものかどうか……おい、俺にも地図を見せてくれ」
さりげなく、あくまでも何気なく、ちょっと気になっただけという風を装って近寄るヒースに、木内は蛇に気付いた猫のように気を逆立てて飛び退いて、端末を背に隠した。
「いやいや、銃持ってる人が余所見はまずいっしょ。地図が見たいんなら、その間は俺が銃を持っとくよ」
「……。気にしすぎだろう。まだ迷路に出る前だぞ」
「日本じゃこういうとき、『石橋は叩いて渡れ』って言うんだぜ」
「微妙に間違ってるぞ。それにお前、持ったところで撃てるのか?」
「任せろって。ピストルなら前にアメリカ行ったときに覚えたからよ」
不敵に笑ってみせる木内を、ヒースは品定めするように睨みつける。二人の間で火花が散るような、緊張感が流れた。
「つーかオッサンよ。そんなにオレに持たすの嫌か?」
「……。……フンッ。いいだろう。地図はお前に任せる」
「オーケー。代わりにアンタは銃の担当だ。頼りにしてるぜ」
鼻を鳴らして廊下へと出ていくヒースを、木内はふてぶてしく見送る。そして、後ろに回していた手を戻した。
震えている。木内の手は小刻みに震えていて、端末を取り落とさないのが不思議なくらいだった。ヒースには見透かされていないと思われるが、もしバレていたらどのように付け入れられるかわかったものではない。
「……ああ、怖い怖い」
手をプラプラ振って凝りをほぐしながら、木内はヒースに続いて部屋を後にするのだった。
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