第2話 『カイウス領』

『ヴェルグ王国』の辺境地――『カイウス領』。

 そこの領主は、数日前に家督を継いだルゥナ・トティスであった。

 十五歳という若すぎる年齢で領主になってしまったのには、理由がある。

 母はルゥナがまだ幼い頃に病に倒れ、父は先日――領地に出没した魔物と戦い果てた。

 悲しみに暮れる時間もなく、ルゥナは選択を迫られたのだ。

 領主を引き継いでこの地を守るか――王国に領地を返還し、貴族であることをやめるか。

 ルゥナに、貴族をやめるという選択はなかった。

 決して、その地位にしがみついているわけではない。

 任せられる人物がいるのであれば、ルゥナはこの地を渡すつもりであった。

 しかし、この地を引き継ぐというのは、この領地に隣接する地を支配する――ラヴァ・グレンダという男だ。

 父から、その男について話は聞いている。

 自らの利権ばかりを考える、貴族としては最低の男だ、と。

 だから、この領地を簡単に明け渡すわけにはいかなかった。

 ルゥナには、この地を守る使命がある。

 ――けれど、ルゥナが追い詰められているのも事実であった。

 近隣を荒らす魔物の存在。

 元々この地は自然豊かな場所であり、開拓が進んでいないところもある。

 そんな場所だからこそ、魔物が出ることも多かった。

 ここ最近では、凶悪な魔物も姿を現すようになり、領地を守る兵士達にも疲れの色が見える。

 さらに、父を殺した魔物もまだ――この地に潜んでいる。

 領民を守るために、ルゥナは剣を取った。

 父から教わり、武に多少の心得があるとはいえ、ルゥナはまだ若い。

 兵士達の士気もろくに上げられるかどうかも分からなかったが、少女が領主となり、この地を守ろうとしている――その事実だけで、兵士の士気を上げるには十分であった。


「それでも……」


 ポツリと、ルゥナは呟くように口を開く。

 近々で魔物が確認されたという山道付近に、ルゥナは討伐隊を引き連れてやってきていた。

 戦ったとして、勝てるかどうか分からない相手だ。

 いや、父ですら勝てなかったのだから――ルゥナにできることがあるのか分からない。


「報告します。魔物の姿はまだ確認できず……」

「分かりました。周辺の警戒をお願いします。私も偵察に――!」


 不意に、近くの草むらが揺れる。

 ルゥナと兵士が構え、臨戦態勢に入る。

 この瞬間に魔物に襲われれば、助かる可能性は低い。

 ルゥナは死を覚悟した――けれど、戦う意思だけは失わなかった。


「……」

「……お、女の子……?」


 姿を現したのは、ローブに身を包んだ少女であった。

 少女はふらりと、山道に倒れ伏す。


「だ、大丈夫ですか?」


 ルゥナはすぐに少女に駆け寄った。

 ひょっとしたら、魔物に襲われたのかもしれない――


「お腹、空いたぁ……」


 そんな心配は、彼女の一言で吹き飛んだのだった。

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