第3章 最後の戦い
挿話 ケインの憂鬱
「まあ、あいつの性格からして、何となく分かるけどな……」
カイトは、葡萄酒を一口含み苦笑いする。
「お前は所詮他人事だよな。マジできついんだぞ」
珍しく本気で苦々しい顔をしているのは、幼馴染のケインだ。若くして魔術師学校の主任教官として、その才能をいかんなく発揮している赤毛の若者は、ため息をつく。
「自分にとっての目標の人が、色ボケでバグってる姿とか、受け入れがたいんだよ……」
現王宮最高位魔術師、ナギのことである。
「まあ別に、仕事に支障を出してるわけじゃない。いやむしろ、彼女が側にいるようになってから、あの人の魔術は質も量も改善してる」
ケインは苦々しくつぶやく。
「確かに、リアはいい子だし、魔術師としてみても、二人はお似合いだよ。だけどさあ……」
とにかく、見ててきついんだよ。ケインは赤毛をかきむしる。
カイトが王宮の公務で見る限り、ナギにケインが言うような緩んだところは見られない。
ケインが幼いころからナギに憧れて、魔術師として鍛錬してきていたのは知っている。一番弟子の立場を取られて、嫉妬でもしているのだろうか。
「お前もいい加減大人になれよ」
口をとがらせる幼馴染の額を小突いて、カイトは葡萄酒のはいったグラスをあおる。
*
(想像以上だった)
昨日の今日だが、カイトは胸の内でケインに謝っていた。
今、彼は、かつてナギが営んでいた質屋、今はリアが店主の菓子店のキッチンのテーブルに座っている。
ナギの体調はだいぶ回復し、短時間であれば自力で不可侵領域外で行動することもできるようになっている。今日はリアの店で昼食を食べるというので、カイトもご相伴にあずかることにしたのだが。
仕事スイッチオフモードのナギの様子は、目を疑うほどだ。
目の前にカイトがいることなど頓着せず、甘い瞳でひたすらリアを見つめては、頬をつついたり、髪に口づけたりしている。
(こいつ、本気になると、こんなになっちゃうのか)
彼が何かに興味を持つと、寝食を忘れるほど夢中になるのは昔からだが、異性関係は淡白だと思っていた。カイトは驚きを隠せない。
(しかし、この精神にくる破壊力すげえな)
なまじ、顔の造作も良いため、ナギからあふれ出す色気は同性でもぞくっとするほどだ。
リアが真っ赤になって困ったようにちらちらとこっちを見るのも、何というか、勘弁してほしい。
まさしく、目の毒である。
(こういうの、ちらちら見せられたら、病むよな)
カイトは心から、魔術師たちに同情した。
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