第63話
ターミネーターか、はたまたウルトロンか。
ヨーロッパやロシア、中国、アフリカの上空に浮かぶ、新生アリステラの飛行戦艦・飛翔艇オルフェウスによる空襲は、エーテル製の魔導弾だけではなく、ヒト型のアンドロイドが多数存在し、魔導弾から逃げ惑う人々の虐殺を始めていた。
「こいつは何?」
「サタナハマタカという量産型の人造人間兵士です……この子たちまで再現しているとすれば……」
アリステラの軍にはかつて、人間の正規兵だけでなく、サタナハマアカという人造人間兵士が大量に量産されていたという。
キャッスルチャリオットやオルフェウスは、そのすべてが結晶化したエーテルによって作られた難攻不落の城塞と戦艦であったが、サタナハマタカもまた、その全身が結晶化したエーテルで作られていたという。
アリステラには、シドと名付けられた魔導人工頭脳が存在し、キャッスルチャリオットやオルフェウスの操縦や攻撃を補助するだけでなく、人造人間兵士すべてにその魔導人工頭脳が搭載されていたらしい。
新生アリステラも、魔導人工頭脳を再現しているはずだった。
「タカミさんなら、その魔導人工頭脳とかいうのにハッキングできるんじゃない?
ほら、4年前に何万台もドローンをハッキングしてくれたよね」
地震の震度を計測する計測震度計も、気象衛星の映像も、すべてはタカミのハッキングプログラム「機械仕掛けの魔女ディローネ」がその情報をリアルタイムで入手していた。
ディローネはどんなプログラム言語に対しても、自動で言語翻訳を行いハッキングが可能なハッキングプログラムだ。
アリステラの時代に開発された魔導人工頭脳であったなら、もしかしたらさすがのタカミやディローネにも手におえないものだったかもしれない。
だが、新生アリステラが開発したのは、どれもアリステラにあったものを別の物質で再現しようとしたまがい物ばかりだ。
「やってみるか……」
やれるかもしれない。やるしかなかった。
「そこは、『やってみるさ』でお願いしたかったですわ」
こんなときでもクワトロ大尉の真似をしろと言うレインは相変わらずというか何というかだった。
「あいつらの攻撃対象を変更して、同士討ちをさせればいいんだよな?」
それとも、すべての人造人間兵士でオルフェウスやキャッスルチャリオットを破壊させるか。
「いえ、もっと素敵な作戦がありますわ。
タカミさんはあの子たちの魔導人工頭脳を、一度すべて初期化してくださいませ。
その上で、わたくしの頭の中にある歴代の女王や、女王の資格を持っていた人々の中からエーテルの扱いに長けた人たちの知識や記憶、経験をインストールするんです。
そうすれば……」
「人造人間兵士たちに、歴代の女王たちの人格が生まれる……?」
「おそらくは」
「だが、君の頭の中にあるっていう、その人たちの知識や記憶、経験を一体どうやって……」
「アンナの他者への憑依能力を使います」
なるほど、とタカミは思った。
あの能力は人格だけでなく、それを形成する知識や記憶、経験までをもデジタル化されたデータとして、エーテルに乗せて憑依対象者の脳に飛ばす能力だった。
「わたくしはこれから、歴代の女王たちやエーテルの扱いに長けた人たちの知識や記憶、経験をデータ化し、エーテルにコピー&ペーストする作業を始めます」
レインは、タカミのパソコンに手を置いた。
タカミのパソコンがインターネットに繋がっているのは、エーテルが電波やインターネット回線の代わりをしているからだ。
彼女はそれに使われているエーテルに、歴代の女王たちの知識や記憶、経験をデータとして移すつもりなのだろう。
タカミは彼女が準備をしている間に、人造人間兵士たちの魔導人工頭脳をすべて初期化する。
彼女の準備が整えば、あとはそのエーテルをインターネットを使って、世界中の魔導人工頭脳にばらまくだけだ。
「ちょっと待って」
ショウゴがふたりの間に割って入ってきた。
「それじゃあ、片方は人造人間でも、ユワの知識や記憶、経験、人格を持つ存在が、ふたりになってしまうんじゃないの?」
彼はまだ気づいていなかったのだ。
ユワは4年前にすでに死んでいるのだ。
今、レインの頭の中にユワの知識や記憶、経験が記録されているのが、その証拠だった。
新生アリステラの女王は、ユワの遺体を千年細胞で蘇生させただけであり、ユワの知識や記憶、経験も人格も、あの体には宿っていないのだ。
だがそれをショウゴに話していいものかどうか、タカミにはわからなかった。
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