掌編小説・『秋分』

夢美瑠瑠

掌編小説・『秋分』

(これは、今日の秋分の日にアメブロに投稿したものです)


掌編小説・『秋分』


 大文字のCreater こと「造物主」たる全知全能の神、Godは、長年、自堕落に酒色に浸っていて、愛らしい妖精たちや、豊満で肉感的な女神たちの色香に迷い、美酒佳肴におぼれ、神様業が疎(おろそ)かになっていた。

 その間に地上の世界は分裂して、アンドロギュノスは男女に分かれ、それを嚆矢として、様々な二項対立が生じて、世の中は乱れ、戦乱が起こった。善と悪は争い、光と闇も対立して、美と醜もお互いを憎悪して殺し合った。

 Godは、こうした世界の惨状を見るにつけ、途方に暮れ、いったいどうしたらよいのかを、天秤と剣を持った正義の女神・ユースティティスに相談した。

 「要するにすべてが統一された状態だったのが頽落して、二つに分裂したのが争乱を呼んでいるのです。元に戻せばよいでしょう!」

 一刀両断、という口調でユースティチスは断定した。

 腐っても造物主で、神からすればそんなことはお茶の子さいさいだった。

 ちょっと複雑な細工の粘土をこねるような要領で、神は世界を「こねなおして」すべて分裂して二つになっているものを「元に戻した」。

 

 男と女はベターハーフが結びついて一つになった。

 神と悪魔という概念、天国と地獄という概念が消えて、永遠の楽園だけになった。

 善と悪は消えて、戦争はなくなり、平和が残った。

 利巧も馬鹿もなくなり、健康で怜悧な存在ばかりになった。

 美と醜も、老若も消えて、美貌の若者ばかりになった。

 幸福だけが残って、不幸は撲滅された。貧富は消え、存在することが富と同義になった。

 勤勉と怠惰も消えて、労働の苦痛や、こざかしいアリもキリギリスもいなくなった。

… …


 この調子でどんどんアポロ的に統一された世界が戻ってきた。

 美と至福のみ、幸福と清らかさだけが横溢している、本来の世界が取り戻されたのだ。


 季節も例外ではなった。幸福や生命を連想させる春と夏のみが季節のすべてとなり、死や悲哀を連想させる秋と冬は消滅したのだ。

 

 「秋分の神」というのもいて、この神様は廃業の憂き目にあった。

 が、かわいそうだからというので「醜聞の神」というポストを新設して、汚らしい、いやらしいうわさ話や人々の嫉妬や憎しみを処理させることにした。

 

 浜の真砂は尽きるとも…理想世界が来てもなおかつ人々の醜聞好き、羨望や嫉妬の種だけは尽きることがなかったらしい…



 <了>

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掌編小説・『秋分』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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