帰還

 …眩しい部屋にぽつんと一人…。孤独感と不安感。そこに誰かがやって来た。眩しくて輪郭しかわからない。


眞之まのちゃん!』


 またまいの声。声を出そうとするが声が出ない。


『眞之ちゃん。よく頑張ったね…。私…ごめんね…何もできなくて…。』


 そんなことないッ!舞がいたからここまで頑張れた!


『私ね、思うんだ。眞之ちゃんにまた会ってお話したいって…。なんで死んじゃったんだろう…って…。』


 声でわかる。舞は泣いている。


『もしね、もし逢えたら一言いいたいんだ!!眞之は私の最・高・の・友・達・だよって!!』


 舞の笑顔が一瞬見えた気がした…。私も!!私もだよ!!!!の!!!


『ありがとう』


 舞がそう言った途端にどんどん離れていく…。また…逢えるよね…。


「舞ッ!!!」


 そう言いながら私は飛び起きた。


「夢…。って、いたたた!!」


 現実が押し寄せる。痛い。


龍輔りょうすけさん!眞之ちゃんが目を覚ましたよ!」


 と御代みよさんが龍輔を呼ぶ。


「おぬし起きたのか!!もう起きないかと思ったぞ!!ほんとに、よくやってくれたな…。」


 龍輔は私の頭をくしゃくしゃと撫でる。誰かに撫でられたのはいつぶりだろう。お父さんが亡くなって以来だろうか。


「さ、そろそろおぬしは帰れ。ここに長居している。理由もないじゃろう。」


 と一通り撫で終えた龍輔が言う。少し帰る事に抵抗感を覚えた。ここには家族がいて友達になれそうな子もいる。ここで暮らしても…。


「眞之ちゃん。あなたが考えていることはわかります。私もそうしてあげたい。でも、あなたを待っている人達もいるのでしょう?」


 また見透かされてしまった。でも、実際そうだ、ここで油を売っている訳にはいかないんだった…。


「うん。帰るよ。元の場所に。」


 そして、帰るための準備が始まり…





「ねぇ、この痛みほんとに治るの?」


 ズキズキと痛む胸を抑えながら聞いた。


「大丈夫じゃ、時の狭間を移動しているうちに治る」


「ほんとに??」


 と怪訝な顔をする。


「大丈夫じゃ、それよりここに来た時もやったと思うが手順は一緒じゃ、多分。」


「え?多分って?」


「未来の我と過去の我とが同じとは限らんじゃろう??」


「え???」


「冗談じゃよ冗談!そんな変わらん!おぬしは目を閉じて飛んで「帰れ」じゃ。じゃぞ、間違えるな?」


 やっぱりいけ好かない。


「よし、行くぞ」


 と呪文を唱え始める…。


「御代さん、龍輔…さん…いや多邇具久たにぐく!ありがとう…ね!」


 私が少し照れながら言うと二人は深くうなづいた。


「今じゃ!!」という合図で目を閉じ。飛んで「帰れ!!」と叫ぶ。


 掠れていく音の中で「我をよろしくな」と聞こえた気がした。




 次元の狭間…。


「よくやったわね、こっちへいらっしゃい」「早く死ねばいいのに!」「あんたなんかあっちへ行って!」色々と聞こえるが今の私にはただの雑音でしかなかった…。耳を傾ける気すらしない。やがて雑音は消えて鈴虫の声が聞こえてきた…。胸も痛くないし苦しくない。恐る恐る目を開けてみるとそこは廃れ切った神崎神社だった…。


 辺りは真っ暗、無事戻ってこれたのか??と多邇具久を探すが姿が見当たらない。辺りをよく見ると鳥居の前に見知らぬカエルの像がある、がそれだけ。多邇具久はやはり見当たらない…。もしかしたらこの像が…。そう思いその像の前で手を合わせた。私を過去に飛ばして力尽きたのだろうか、もしくは現世に用が無くなったから…。


「お!おぬし、帰ったのか!どうじゃった!?呪いは祓えたか?」


 多邇具久の幻聴が聞こえる…。


「お~い!なんでそんな像に手を合わせておる?」


 違和感を感じ目を開ける。像になったはずの多邇具久と仮面を被った多邇具久…。二人??


「多邇具久が二人…。私って未練…強い…。」


「?え?あ!いや、こっちが本物じゃよ!?このカエルの像は模様替えじゃ!真ん中に置くとなんか強そうじゃろ!」


 多邇具久はそういうやつだった。


「っぷ…。あはははは!!もう!私、ばかみたいじゃん!!」


 思いっきり笑った。安堵感が強かったのだろう。多邇具久も「ははは」と少し笑っていた


「ふぅ…。笑った笑った!…。でね!!」


 一通り笑い、過去での経緯を出来る限りを教えた。干渉の件は内緒にして。


「ふむ、呪いを倒したかよくやったな!!じゃが、呪いが藤原ふじわらの道真みちざねじゃったとはな…。」


「藤原道真って?」


「簡単に言うとの一つじゃよ。現代では学問の神様として崇められておるがな。呪いの力は超強力じゃぞ?」


 私は呪いの強さを身をもって体感した。それでもとか言ってたっけ…。いつかお参りにでも行こう。また呪われても困る。というより、そんなことを話している場合ではない。


「おばあちゃんのとこに行かなきゃ。」


「うむ。行ってくるのじゃ、我はいつでも待っているでな。」


「うん!!!!ありがとう!多邇具久!!」


 そう言ってそこを離れた…。

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