神崎

「着きました、ここが神崎神社かんざきじんじゃです。」


 雑談をしていたら着いてしまっていた。現世で見た過去の姿よりなんだか薄汚かった。あれは多邇具久たにぐくが一番記憶にあった姿だったのだろうか。


「ごめんなさいね?思ったよりも汚かったでしょう?最近は色々ありまして…。」


 思っていたことを見透かされてびっくりしてしまった。


「え?あ!いや!もう、なんていうかその、…趣があっていいと思います!」


 咄嗟に擁護しようと変な言葉選びになる…。


「ふふふ。ありがとう、あなたは優しいのね。ずっと立っているのは大変でしょう?そこの縁側に座って待っていて?お茶を持ってくるわね。」


 内心『やったー!』と思いながら「お構いなく~」と言って縁側に座った。恐らくここの奥さんであろう人が家の中へ消えていく。


 …風が気持ちがいい……。


『って!!え!?待って!!今の、奥さん!?ここ!?ここ、神崎神社の!?え!?私の先祖じゃん!!』


 と言うツッコミを自分に入れながら辺りを見渡す。多邇具久を探さねば…。とそうこうしていたら…


「はい、おまたせ。お茶とお団子を用意しました、お客さんなんて珍しいですからね…ゆっくりして行ってください。」


「あ!ありがとうございます!!頂きます!!」


 と言ってお腹の空いていた私は口いっぱいに頬張った。


「ふふ。かわいい子ですね。そんなに急がなくてもお団子は逃げませんよ?」


 口いっぱいに頬張ったお団子をよく嚙んでからお茶で流し込み本題に入った


「んぐ。んぐ。ゴクンっ!…あ、…あの、神崎神社の神主のたに…あ、えっと…りょ…りょうすけ?さんはいますか??」


龍輔りょうすけさんですか?おられますよ?龍輔さ~ん来客ですよ~!」


 奥さんがそう言うと奥から聞きなれた声が聞こえてきた。小耳にはさんだ程度なので名前があっているか心配だったがりょうすけであっていてらしい。


「なんじゃ~。我は寝とったんじゃが~?というよりここに来客なんて…」


 目と目があった。現代ではずっと仮面をつけていたから素顔は解らなかったが、意外とカッコイイ。


「ひ、人じゃ~!!参拝者じゃ~!!…けど子供じゃ…。」


 相変わらずだった…カッコイイは取り消す…。というかそんな茶番をしている場合ではない……。


「あ、あの!!単刀直入に聞きます!!あなたは多邇具久ていう神様で呪いに困っていますよね!!」


 急にぶっこみすぎたか…。龍輔と奥さんが顔を見合わせる…。


「わ、私は、あなたたちの子孫で呪いを祓いに来ました!!」


 2人が更に怪訝な顔をする。


「ちょいと我に話せること話してみぃ。」


 私は信じてもらえるチャンスだと思い、知っていることをすべて話した。神社のこと。呪いのこと。多邇具久のこと。未来の多邇具久が助けを求めに来たこと。私が未来に来た理由と、呪いの止め方。


「ん~でもまぁ、おぬしは色々と知りすぎておる…。その変な着物を着ているのも納得はいく…。じゃが、止め方が明確ではないのぉ~。」


 色々と反論したかったが時間もないのでグッとこらえた。すると、奥さんが。


「龍輔さん私はこの眞之さんを信じます…。噓を言っているようには見えないのです。」


 と信じてくれている様子だった。少しの沈黙が続いた後…。


「よいじゃろう。面白そうじゃからこの話乗った!呪いがとければ一石二鳥じゃし!!」


 よし!信じてもらえた!というより信じてくれなければ元も子もない。


「そうと決まれば此方に来い」


 残りのお団子を頬張り、龍輔に言われるがままに家の中に入っていった。すると魔法陣のようなものが床の上に描かれていて、円の中心はゆりかごのようなものが設置されていた。その中で赤ちゃんがスヤスヤと眠っている。


「かわいそうじゃがこうする他、呪いを抑えられないのでな…。で、何か策はあるのか?」


 多邇具久には「「きっと上手くいく」」としか言われていない…。


「ごめんなさい…策は無いかな…。」


「……。そうか。」


 龍輔は顔をしかめた後にボソッと呟いた。


「ここはひとつ、おぬしに賭けてみようかの…。」


「我はおぬしを信じる。おぬしは我を信じるか?」


 急に言われてもわからない…多邇具久は変な奴だしうざいし…。でも何か策があるのだろう。でも、信じないことには前には進めないと思った。


「…。信じる…。私あなたのこと信じる!!」


「…ならよかろう…。我に策がある。」


 …。


「えぇ!?そんなの一か八かじゃない!!失敗すればもっと大変な事に…って。私への負担大きすぎじゃない!?」


「じゃから言ったんじゃ。我を信じるかと。我はおぬしを信じると。」


「そんなこと言われても…」


「大丈夫じゃきっと…。否、絶対上手くいく!と信じておるぞ!」


 結局は私次第か…でも、


「…。わかった、やる。時間もないからね!」


 私は目で自信を表した


「うむ。良いか?もう一度策の確認じゃ。」


「うん。」


「我はこの結界を解き、呪いを赤子から引き釣り出す!そうしたら呪いは具現化し我らの目の前に現れるだろう。そしておぬしは神術で呪いを使い、呪いを祓う。これが一連の流れじゃ。」


「神術の使い方って…?」


 使い方は習ってない…。


「なに、簡単じゃ、気持ちを拳に込めその拳で殴るだけじゃ。神術を使う、おぬしの場合はと想見する事が大切じゃ。」


「想見…。想像するってこと?ってか私、人殴ったことないんだけど…。」


「大丈夫じゃ!!相手は人でなければ煙みたいなもんじゃ、殴るというより呪いを、神術を中あてる事を意識することじゃな。」


「呪いをあてる…。」


 少し想像が付き難かった。


「良いか?相手は呪いじゃ、何をしてくるかわからんが、絶対に惑わされるでないぞ。心は強く持て。」


「うん。そこは大丈夫!」


 これまでのことで心は強くなっている…。はずだ。


「よし、準備は整った、いきなり本戦じゃ!我が三つ数えたら早いとこ祓え先手必勝じゃ!」


「いつでも!!」と言いながら足は震えていた。


「大丈夫じゃ、我がついとる。行くぞ!!」と龍輔は数を数え始める。


「壱」


「弐ノ」


「参!!」


「一本釣りじゃぁぁ!!!」


 すると、もくもくと赤ちゃんから煙のような黒い瘴気が人の形を形成していく…。早く祓わなければ!!


「いけえええええええ!!!!!襾壞戻もどれぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 殴る直前、多邇具久の声で「眞之ッ!!やはり待て!だめじゃッ!!!」と聞こえた気がした。もう止められない。




 次の瞬間。









 私は天井を仰いでいた…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る