過去

 身体は宙に浮いている感覚。すると、辺りの音が消えたと思ったら人の声が何処からともなく聞こえてきた


「おい!"魔物"!!こっちみんなよ!!」「ひどい顔…」「「「ぬ~げ!ぬ~げ!」」」


 多邇具久たにぐくは耳を傾けるなと言っていた…。無視だ…!


眞之まのちゃん」「眞之!」「ま~の!!」「眞之…」「"魔物"!!」


 いろんな人の声で私を呼んでいる…。暗い…。怖い…。やめて…やめてよ……。


「やめて!!!!」


 気付いたら大声で叫んでいた。足には地面の感覚……。恐る恐る目を開けるとそこは見慣れない場所だった。


「あの子どうしたのかしら…。」「ひどい顔よ…」「身寄りのない子かしら…。」「見てあの子の着物、変よ…」


 やばい、干渉するなと言われていたのに滅茶苦茶白い目で見られている。早くここを去らねば…。と、その場を足早に去ろうとした途端誰かが声をかけて来た。


「どうしたの?大丈夫??」


 聞き覚えのある声…。ふと後ろを振り返る。


 !!!!!


 そこにはまいいや、舞に似た声、似た顔の子が目の前に立っていた。


「ねぇねぇ!!その着物なぁに!!可愛い!!」と舞から借りてからずっと着たままだったポンチョの様な服を指さしていた。


 私は何故だか確信出来た。舞の先祖だ…。なんだか感情があふれ出してくる。涙が止まらない…。


「舞…舞ぃぃぃぃ!!ごめん!!ごめんなさい!!舞ッ!!私、私ぃぃぃ!!!うえぇぇん!!」


 わかっていた。目の前の子は舞ではない、干渉してはならない……でも止められなかった。感情を抑えきれなかった…。気付いたら抱きついて大泣きしていた…。でも


「大丈夫!!あなたは一人じゃない!あなたにどんな事が起きてるのか知らないけどさ、あなたならなんだかどんな困難も乗り越えられる気がするの。頑張れ…!名も知らない子。」


 名も知らないはずの私の事を受け入れ励ましてくれた…。


 …少しして我に返った。


「ぐずんっ…ごめんなさい迷惑かけて…。私行かなきゃ…。」


 早くしないとおばあちゃんが待っている…。


「うん!頑張ってね!また会えたらその着物?の事教えてね!!」


「…うん、またいつか…」


 涙を拭いそう言ってその場を足早に去った。


 あれから数分…。


「まずい…。神崎神社の場所がわからない…こっちに来る前にちゃんと聞いておくんだった……。というより教えといてよね!!」


 今自分が何処に居るのかもわからない状況で迷子になっていた…。『ぐぅぅ~~ッ!』さっきから腹の虫が収まらない…。


「お金も無いから食べるものもない…。せめてだけ水でも…。くそ~ぅ…私、このまま死ぬのか…。」


 そうぶつぶつと呟きながら町を練り歩いていたら。


「どうしたのですか?ここじゃ見かけないお方ですね。道に迷いでも?」


「あっ…。」


 まずい話しかけられてしまった…。でも一度見ず知らずの人に抱き着いたんだもうどうにでもなれ!!と思い返答を続けた。


「い、いや~神崎神社を探していて~でも道に迷っちゃって~なんて~あはは~」


 何でこんな言い方をしてしまったのか、人は咄嗟に反応すると変な口調になってしまうものだ。


「そうなのですか?神崎神社なら私も行こうとしていたところなのでご案内致しますよ。」


 何という偶然。これをラッキーと言わずして何という。


「え?いいんですか!?お願いします!!」


「ええ、では参りましょう。」


 あっさりと案内してもらうことに。


 そして、


「そのお着物はどういった…」「え?いや~、えっと~、じ、自作なんですよ~あはは~」


 なんてちょっとした雑談をしながら歩いていた。

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