神術

 笑いの神も通り過ぎ冷静さを取り戻した私はカエル面の男性と神社の縁側に座っていた。


「よ~し、気を取り直して"もう一度"呪文を…」


「い、いや!もう信じるからいいって!!ってかやめて!」


 何故かやり直すと言い出したので私は咄嗟に止める。


「やらせてくれぬか?このままじゃメンツが持たないのと"個人的"にもやっておきたくてじゃな。」


 カエルの面をしていて表情なんか見えないはずなのに真剣な顔をしていると感じ取った私はこくりと頷いた。すると、またあの長い呪文をゴニョニョと唱え始めた、今度は口を挟まないでおこう。カエル面の男性が一通り呪文を言い終えると「大地よ!!」と言い放った…すると、啞然だった…。周りの木々などがたちまち若くなっていく。更に、今まで廃れていた神社までも綺麗になっていく…。


 そう、時が戻ったかのように…。


「どうじゃ!これが我の力!すごいじゃろう??」


 すごいなんてものじゃない、正に神秘…。


「ど、どうやったの…?私、改めてあなたのこと信じるよ…。」


「まぁ、神術しんじゅつというものじゃな、まぁ、詳しいことは省くが簡単に言うと時を戻したというべきか。一定の範囲にしか使えんが。」


 空気が気持ち良い。なんか、すごく落ち着く…。


「なんだろうなんか懐かしい感じ…。」


 するとカエル面の男性が。


「ほれ、茶じゃ。ゆっくり飲め」と湯吞に入ったお茶を何処からともなく出してきた。


「え?これどこから…」


「供え物じゃ」


 …。


「冗談、冗談!神術じゃよ!飲め飲め!」


 周りを見渡すとどこから待ってきたのか、賽銭箱の裏にお茶を作るセットが置いてあった。


 段々落ち着いてきて少し頭が追い付いてきた頃。


「ねぇ、質問していい?」


ではない我には多邇具久たにぐくという名前がある。」


「…たに…ぐく?は何の神様なの…?」


 ずっと気になっていた。


「話は長くなるが良いか?」


「うん。」


 すると自らを多邇具久たにぐくと名乗る男はお茶を飲み干し、湯吞みの底を確認してから話し出した。


「ここは多邇具久嵜神社たにぐくざきじんじゃと言っての神様が祀られていた場所じゃ。まぁ、我の事じゃがな。多邇具久は物知りな神として知られていて、『国土の隅々まで知り尽くした存在』や『地上を這い回る支配者』とも呼ばれていた。少し昔話をすると、小さい神が岬に現れ、名前を知りたいと言ってきたにそいつの名前を知ってそうなを紹介してやったのも我だ。まぁ、それだけじゃがな。とにかく、土地を知る存在として豊作祈願に信仰されていたんじゃ。」


 ここで、私の中で疑問が浮かび上がった。


「ちょっと待って、仮にたにぐく?がちゃんと神様だとして、その説明だと物知りな神様ってだけじゃん今見せた神術は説明つかなくない??あと"特に何もしてない"じゃん。」


「案山子を教えたことが様々な発展に繋がったのじゃよ…そんなことは今はどうでもよい。」


 どうでもいいのか…。


「神術についてはじゃが、神は信仰されれば信仰されるほど強くなる、という話は知っておるか?元々神と言われる存在も人とはあまり変わらないんじゃ、だがなにか行動を起こせばいつかは崇められ、信仰するものが現れる。そう言った人々の信仰心が我々、神の力の源と言う訳じゃ。簡単に言うと我もそれなりに崇められていたということじゃな。」


 なる…ほど…?だから信仰される前は物知りなだけだったのかと少しだけ納得した。が、ドヤ顔にはイラっと来た。


「そして、我の神術は言霊を操る能力。特にに関しての言葉にはより強力な力を発揮する。言葉遊びみたいな感じじゃな!はははッ!」


 私は少し呆れた顔をした。

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