学校

 み~んみ~ん…。




 私は誰よりも早く教室に来ては自分の机に突っ伏して寝たふりをしていた。やがて時間が経つと教室内はクラスの生徒でガヤガヤと活気づいていた。




「昨日のテレビ見た??」「このネイル超かわいくなぁい?」「今日の授業はゆりね先生だって!!」み~んみ~んと鳴く蝉の声と相まってなんだか苛立たしく思える。


「お~い、おっはよ~!まの!」




 その騒がしい音の中から自分の名前が聞こえた気がして、ふと顔を上げる 目の前にいたのは『桜ノ宮さくらのみや まい』性格は凄く元気な女の子でいつも変なポンチョの様な上着を着ている。校則は緩いから下に制服を着ていたら大丈夫…らしい…?舞は唯一の友達だ。一番信用している。


眞之まのちゃん!!聞こえてる?ってか起きてる??眞之ちゃ~ん?」


 舞の言う眞之まのとは私の事、『神崎かんざき 眞之まの』である。私はズボンを履き、上は白いシャツを着ている、世間でいう男勝りな見た目をしている。性格は乙女……。だと信じたい。


「起きてるよ、現実を見たくないだけ…。」と気だるげに返事を返す。


「辛いのはわかるけどそんなこと言わないでよ~、私がいる限りは守ってあげるし!!」


 舞は高々と胸を張った。


 私は「舞も物好きだね…私とあんまりかかわると標的にされちゃうよ?」と言い周りに目をやる。


 そう、私はこのクラスの、なのだ。わかりやすく言うとの対象である…。小学生の時、火遊びで家が燃え、兄は外に逃がしてくれたものの取り残された父を助けるといってそのまま二人が帰らぬ人に。そして、その時に負ったやけどの跡が今でも顔半分と身体のあちこちに残っている。人は自分と違うものや周りと違うものは酷く拒絶し邪険に扱う。やがて"嫌い"は伝染しグループを作り標的を一方的に攻撃する。


 それがの原因。


 舞は毎回、『気にすることないよ!眞之は誰がなんと言おうと可愛いし!私の嫁だし!』と言ってくれる最後のは余計だが舞のおかげで心に余裕が持てる。


 舞の「聞いてるの~?お~い?死んでな~い??ねぇ~!」という呼びかけの声を尻目に少し物思いに更けていた。


 すると突然、怒鳴るような声が教室に響いた。


「おい!!!!何でいるんだよ!昨日言ったよな!?きもい顔俺に見せんなってな!!」


 この目つきが悪いこいつは『金村かなむら 亮祐りょうすけ』イジメの主犯格だ。校長の息子というのをいいことに人をイジメている。野菜より嫌いだ。


「おい!!魔物!!そのきもい顔切り落としたほうがいいんじゃねぇの!!整形だな!ない方がスッキリするって!(笑)」


 金村の言うとは私のことだ、見た目から連想していっているのだろう正直なところ何年もいろんな人から言われてきた悪口だ慣れてきた。言いたい奴には言わせておけばいい。


「なんか言えよ!不細工!もっと顔をぐちゃぐちゃにされたいか??(笑)」


 何を言われようと何とも思わない…何とも…。自分に言い聞かせ、舞の顔色を伺う。私がいつも何もしないでと言っているからか舞は下を向き無視をしてくれていた…。が、よく見ると唇を咬んで震えていた。


「ってか身体はどうなんだよ!(笑)みんなの前で脱いでみろよ!ほら!ぬ~げ!ぬ~げ!!みんなもほら!!」


「「「ぬ~げ!ぬ~げ!」」」


 調、私の事が嫌いな人もそうでない人も…。あんなにうるさかった蝉の声を忘れるほどの拍手とともにコールが行なわれていた。耳をふさごうとまた机に突っ伏そうとしたその時。


「もう!!やめてよ!!!」


 舞がその場で立ち唇を血だらけにしてそう言い放った。周りは静まり返り蝉の声だけが教室に響いている。今まで何も言ってこなかった舞が声を荒げたことに対してクラス中が驚いている様子だった。


「い、イジメなんてかっこ悪いよ!き、聞いてて気分が悪い!!」


 舞の堪忍袋の緒が切れたのだろう、こんな舞を見たことがない。


「ほかのみんなもそうだよ!!イジメられるのが怖いからって一緒になってイジメるの!?こいつと同罪だよ!!」


 声を震わせ、涙を流しながら金村に向けて指をさしていた。友人である私のためにここまで言ってくれている、私も何か言ってやりたい、反撃しなきゃ…


 そこから出た言葉は…


「もう…いいよ」


 だが、周りには聞こえていない様子だった。反撃したかった、一矢報いてやりたかった。でも、体が、喉が、脳が"恐怖"で支配されていた…火傷の跡が疼く…痛い。怖い。けど…舞が…。舞が標的になるほうがもっと辛い…金村と舞が言い合っている。


「なんだよ!ブスが!割り込んでくるんじゃねぇ!!黙ってみてろ!」


「そ、そんなこと出来ない!!もううんざりなの!」


「生意気言いやがって!イラつくなぁ~!!いいや、痛めつけてやろうぜ!!お前ら裏庭にこいつを連れてこい!!」


 金村がそう言うとガラの悪い男子らが舞を無理やり拘束する。


「痛い!!やめて!!」


 このままじゃ舞が危ない…舞が巻き込まれるぐらいなら…ッ!!


「も、もういいよ!!やめて!!」


 声も足も体も震えが止まらなかった。けれど、全力を振り絞り言った。


「か、金村!もう…もうやめて!!これ以上舞を巻き込まないでッ!!」


 その場を去ろうとしていた金村の足が止まる。


「も、もういい!!私をどんだけイジメても、滅茶苦茶にしても構わない!!だからッ!!だから…舞には手を出さないで…。」


「眞之…」


 その場が静まり返る…蝉も事態を察したのか、はたまた自分が気に止めていなかっただけなのか羽音すら聞こえないぐらいに静かだった。凄く長く感じる静寂の金村が口角を上げ言った。


「よし、初めて口答えした記念にこの舞とかいうブスのした事は忘れてやる。その代わり条件としてお前は舞とかいうやつと縁を切れ。そして、今からた~んとお前のことをかわいがってやるから旧校舎の二階男子トイレに来い。ちゃんと別れを言うんだぞ~(笑)」


「あ、あと来なければ舞も標的にする」と言って金村はその場を去っていった…


 金村の去る足音が聞こえなくなった頃、私は覚悟を決め指定の場所へ足を運ぼうとした。


「眞之…!いっちゃだめだよ!!行かないで!おねがい!私を一人にしないで!私が眞之を守るからッ!!次はこんなことにならないからッ!!だからッ!!」


 舞はさっきのもみ合いで足をけがして上手く立てないようだ…でも決めた。舞は大切な親友だから…


「待ってよ!!!!」


 舞の制止の声を振り切って


「ごめんなさい。」


 そう言って教室を出た…

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