霧が立ち込める深い森。人を寄せ付けないほど大きな沼地がそこら中にあり、下手に足を踏み込めば二度と帰ってこられないとされる禁断の地だ。そこに一人の青年が迷い込む。名はノート・レイミ。れっきとした成人した男であるが身長が低いためか子供と間違われることをコンプレックに感じている。

 周りの大人に自分の度胸を見せつけることを実行したことは禁断の地に入り込み、そこに眠る財宝を見つけて持ち帰ることだった。ノートは深い森に入ってから数日たとうとしていた。どういうわけか帰り道がわからなくなっていたのだ。来た道を引き返したはずがいつの間にか元の場所に戻ってきている。まっすぐ歩いたはずなのに来た道を引き返したかのように戻ってきてしまっていたのだ。空を見上げて太陽の方角から出口を割り出そうとするのだが、あいにく霧が濃いのか雲行きが怪しいのか太陽が見えない。

 なんたることだろうか。まさか大人たちに証明するはずが子供だと立証するような立場にいるのではないか。ぎゃふんと言わせるはずが逆に子供の用に迷子になってしまっている。なんとしても脱出しなくてはならない。なぜならこのまま帰れなければ死ぬどころか迷子というレッテルを張られたまま行方不明扱いになってしまう。ふざけるな証明するのが俺のやり方だ。ノートは出口を追い求めて霧の奥へと消えていく。

 そして、追い求めていたものがようやく姿を現した。それは古い建物で築何百年は経っていそうな古城だった。すでに放棄されており建物は一部崩壊しており、足場は脆くいつどこから崩れてもおかしいぐらいだった。

「こんなところに…建物?」

 ずっと霧に阻まれ足元は沼地だったためか、人が住んでいたかもしれない建物と多少足場は悪いが沼地よりも平気であるけれるという場面からノートは城の中へと招かれるかのように入っていった。

 崩れていない場所へ進むことにノートは不安や恐怖よりも安堵と安心が彼の脳を支配していった。壁に手をかければ崩れる壁があろうが、暗くて蜘蛛の巣だらけなのに手で払えば前に進めるという安心感。彼の心、いや脳がこの城の中へと引きずり込まれようとしていた。彼は、目にしてはいけない物を見つけてしまった。

「な…んて…りっぱ…な…もの……なんだ」

 見つけたものは兜だった。一室だけ妙に明るい部屋だった。壁には一枚だけ絵画が飾られており、そこに兜をかぶった勇姿がいた。赤いマントに青黒い鎧を着込んだ人物が写っている。その姿を見たノートは「なんて神々しいんだ」と感動していた。目の前に置かれた兜を見て、自分もあんな姿になりたいと心から思うように兜をかぶった。

 すると、兜の中になにかがいたようだ。粘りつくなにかがノートの顔を覆いつくす。息ができない苦しみというより安らかになれるかのような眠りが襲っていた。抵抗する術もなく抗うことさえ許されないまま兜に乗っ取られた。そして、粘り着くものがノートの全身を覆いつくすと絵画にあったかのような甲冑を着た戦士となった。

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